「常識や価値観が、がらがらと崩れ落ちた」海外に出た医師らが気付いた〝魅力〟 コロナが突きつけた地球規模の脅威「他国の状況にもっと目を向けて」
急きょ診察した現地の大学病院の医師は「すぐに治療をしないといけない」といい、紹介できる病院を女性に伝えた。 ところが、女性は治療をかたくなに拒んだ。「家族がいるし、私が村を離れたら、誰が子どもたち家族の面倒を見るんだ。今まで確かに胸が変だとは思っていたが、病院には行けない」 費用の問題も大きい。そこで現地の医師が「僕が治療費を出す」とまで言い、とりあえず1回だけ受診することに決まったが、女性がその後、どうなったかは分からない。 市村さんは、やりとりを聞きながら、ここでも驚いた。「日本では診断イコール治療ですが、途上国だと全く別なんです。たとえ診断できても、治療につながらないことは多い。日本では考えられないことが多かった」 ▽砂ぼこり 歯科医師の清原宏之さん(35)も何度か渡航して、海外で医療に携わった。アフリカのザンビアで病院の機能を整える支援のために行った際は、思うようにいかないケースばかり。まず、電子システムが全然動かない。インターネットがつながりにくい。古いパソコンでメンテナンスもされておらず、コンピューター上でボタンをクリックしても、次の画面になかなか移らない。
「道路があまり舗装されていないせいか、砂ぼこりが入り込んで医療機器がすぐに故障する。停電も多く、復旧した際に壊れてしまうこともあった」 「日本では当たり前だと思っていた常識や価値観が、ガラガラと崩れ落ちる瞬間に何度も立ち会った」という。「途上国では、そもそも診断をできる人が少ない、という問題もあります。たとえばカンボジアは東京都より人口が多いのですが、病理診断ができる人は5人ぐらいしかいない。患者も健康に関する教育を十分に受けていないどころか、文字が読めない人も多い。基本的なこともなかなか伝わらない。だから支援が必要なのです」 ▽ガラパゴス化 海外で活動してきた市村さん、清原さんは、新型コロナの流行が拡大した2020年以降、日本国内で医療や地方行政の仕事にそれぞれ携わった。感染が落ち着いた後で海外に戻った後、日本の課題がはっきり見えるようになったという。 市村さんが指摘するのは、海外に出て行く日本人が少なさだ。