息子の会長就任に怒り心頭の父。デル・ニド親子の紛争がセビージャに与える影響
文 木村浩嗣 息子が自分も会長だったクラブの会長になって、親子二代の会長が実現。これを名誉と思わない父親はいないだろう。ホセ・マリア・デル・ニド・ベナベンテ(以下、デル・ニド父と呼ぶ)を除いては――。
父が抱く息子への深い恨み
2023年12月31日、セビージャの会長交代が発表された。会長だったペペ・カストロが副会長に退き、副会長だったホセ・マリア・デル・ニド・カラスコ(以下、デル・ニド息子と呼ぶ)が新会長に就任した。 これに噛みついたのがデル・ニド父だった。 「クラブ史上、最も違法な会長交代だ」 「私に投票の権利を与えず、連中は天文学的な給料にしがみ付き続けるつもりだ」 株式会社であるセビージャには「会長選挙」は存在しない。普通の会社同様、取締役会が最高議決機関で、同会が承認した人事なので完全に合法なわけだが、父には息子への深い恨みがあった。 デル・ニド父は2002年から2013年まで筆頭株主であり会長だったが、汚職事件で有罪になり辞任を余儀なくされた。その際にデル・ニド息子に一時的に持ち株を譲り、服役後に返却してもらって会長に返り咲く腹積もりだった。だが、親子の仲がこじれて約束は反故となり、それ以来、会長の座をめぐる骨肉の争いが続いているのだった。 最近も先月初めの株主総会で、父が企てた会長への不信任投票を息子のいる取締役会が拒否すると、激高した父が息子を「お前は糞だ!」と罵倒する事件があった。先の「私に投票の権利を与えず」という父の発言は、この一件を指す。 第一次黄金時代を築いたデル・ニド父にはカリスマ的な人気があり、ウルトラスの支持も得ているが、手持ちの株数が不十分で取締役会に参加できず、クラブの意思決定に関与できない。息子の新会長就任についても、メディアを騒がすことはできても、それを阻む実効力はない。
チームは苦戦続き。激動の年に
2024年はセビージャにとって激動の年になるだろう。 スポーツ面では、先月中旬にキケ・フローレスが、ホセ・ルイス・メンディリバル、ディエゴ・アロンソに次ぐ今季3人目の監督に就任。デビュー戦で勝利するも、その後2連敗で、現在、前半戦を終えて16位。降格圏からわずか1ポイント差に沈んでいる。 スポーツディレクターのビクトル・オルトラはアフリカネーションズカップに招集中のチーム得点王エン・ネシリの代役として、ダトロ・フォファナ(チェルシー所属、ウニオン・ベルリンにレンタル中)の獲得を決めた模様だが、メンディリバルの早過ぎた解任とアロンソ抜擢の失敗で、オルトラ自身のクビも危うくなっている。ちなみに、前スポーツディレクター、モンチからも新会長への祝福メッセージはなかったそうだ。 今季の残留レースはアルメリア、グラナダの降格が濃厚で、例年ほど厳しくはないが、万が一降格あるいは首の皮一枚での残留となれば、デル・ニド父の復権もない話ではない。