誰でもファッションを楽しめるシステムを 渾身の半生記―田中 美咲『非常識なやさしさをまとう―人とともにデザインし、障がいを超える―』橋爪 大三郎による書評
≪お前は人一倍パワーがあり過ぎる。…人生で何を成し遂げたい≫。コーチングの授業でこう問われ雲が晴れた。≪傲慢で、…負けず嫌い≫な著者は、小中高で居場所がなかった。東日本大震災では現地に飛び込み働いた。やがて「防災ガール」を起業。7年して事業を譲渡した後、社会課題解決の新会社と衣料ブランド「SOLIT!」を創業した。 車椅子などハンディがあっても誰でもファッションを楽しもうよ。病院やデザイナーも知恵を出しあって数多くのパターンから受注生産するシステムを作った。ベルリンの著名なデザイン賞最高賞にも輝いた。 苦労ばかりだ。「防災ガール」は社内の不満で炎上し、新会社でもストレスで≪双極性障害と、パニック障害を発症≫した。それで障害者「福祉手帳」を取得。そんな舞台裏も赤裸々に語る本書は、爽やかに勇気を送ってくれる。誰ひとり取り残さない「インクルージョン」をめざす会社の、理念そのままの体当たり経営だ。多様性を掲げる企業は腰砕けにならぬよう、起業家・田中美咲氏の渾身の半生記を読みなさい。 [書き手] 橋爪 大三郎 社会学者。 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。 著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。 [書籍情報]『非常識なやさしさをまとう―人とともにデザインし、障がいを超える―』 著者:田中 美咲 / 出版社:ライフサイエンス出版 / 発売日:2024年07月10日 / ISBN:4897754828 毎日新聞 2024年8月3日掲載
橋爪 大三郎
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