接し方を変えないと「3年で辞める若者」はいつまでも減らない
新卒で入社した社員の3割が3年以内に辞めてしまう――。こうした若手の早期離職に悩まされている企業は少なくない。早期離職防止サービスなどを手掛けるカイラボ(東京・中央)の井上洋市朗社長は、真因は「上司と部下のコミュニケーションに課題があるからだ」と指摘する。では、どのようなコミュニケーションを意識すれば、若手社員の早期離職は防げるのか。その基本的な考え方を解説する。(聞き手は 経済メディア編成部 久保 俊介) 【関連画像】大企業でも若手社員が入社3年目以内に約3割辞めている 今、これまで以上にコミュニケーションが重要になってきています。1on1(ワンオンワン)ミーティングや評価面談など、上司と部下とのコミュニケーションの場を、多くの企業が積極的に設けるようになってきました。そうした中で、早期離職対策サービスを提供するカイラボには、上司のコミュニケーション力を高めるための社内研修の依頼が増えています。 そもそも、なぜ若者は早期に辞めてしまうのでしょうか。かつては、働き方が厳しすぎる「ブラック企業」の問題が取り沙汰されていました。しかし、「それでは駄目だ」という価値観はかなり浸透してきたように思います。一方最近では、働きやすさを重視する「ホワイト企業」でも若者は辞めてしまいます。ホワイトすぎて思ったように仕事を通じて成長できず、失望して辞めてしまうのです。 2023年10月に厚生労働省が発表した「大学新卒者の3年以内離職率」のデータを見てみましょう。過去最低は、バブル崩壊で転職先がなかった1992年卒の23.7%。過去最高は、就職氷河期世代で就職に苦労した人が、IT(情報技術)バブルによりIT系企業に転職をした2004年卒の36.6%です。ただ、この10年ほどを見てみると、社会全体では、ほぼ変わっていないということが分かります。 ところが大企業と小規模の企業を比較すると、また違った景色が見えてきます。最新データで比較すると、100~499人の事業所で32.9%、1000人以上の事業所で26.1%と、数字だけ見れば大企業の方が離職率は低いのですが、小規模企業の離職率がこの10年横ばいなのに対し、大企業は右肩上がりの状態です。両者の離職率の差がどんどんなくなってきている。つまり最近では、比較的安定している大企業でさえも、辞めてしまう若者が増えてきているということになります。 ●「安定を求めているから、大企業を辞める」という現象 一方で、次のようなデータもあります。マイナビが毎年実施する「今の大学生が企業を選ぶ基準」という調査によると、「安定している会社」が近年では5年連続でトップになっています。2位は「自分のやりたい仕事ができる」ですが、実は、これは30年ほど前からずっとトップだったもの。それが5年前に逆転し、今では安定を求める学生が増えてきているのです。なぜ、安定している会社を求めている人が増えているにもかかわらず、大企業の離職率が上昇しているのでしょうか。 ここで考えられるのは、「安定」という言葉には2つの意味があるのではないかということです。1つが「A:会社が倒産しないという意味での安定」、そしてもう1つが「B:自分が食いっぱぐれない意味での安定」です。かつては「A=B」と考える人も多かったかもしれません。しかし、今の若者はAとBは別物と捉えています。会社が雇用を守れない場合に備えて、自分が食いっぱぐれないスキルをいかに早く身に付けられるかが、若者にとってはより重要なのです。