高速道路から戦闘機がテイクオフ! ヨーロッパ各国が相次いで訓練を実施する理由とは?
6月5日、スイス空軍は高速道路を使った戦闘機離着陸訓練を実施した。高速道路を滑走路として使うアイデアは新しいものではないが、近年再注目されている。そこにはどんな理由があるのだろうか? TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)
ステルス戦闘機F-35Aも高速道路から離陸
この訓練には、8機のスイス軍F/A-18戦闘機が参加したようだ。スイス西端ヴォー州、F/A-18部隊の基地であるペイエルン空軍基地に隣接する高速道路A1号で実施された。スイスが高速道路を使った離着陸訓練をするのは異例のことだが、欧州全体で見れば珍しいとも言えない。5月には北欧スウェーデンがJAS39グリペン戦闘機を用いた高速道路からの離着陸訓練を実施しており、同じく北欧のフィンランドは年次訓練「バーナ」として行なっている。昨年の「バーナ23」では、ノルウェー軍から参加したステルス戦闘機F-35Aが初めて高速道路での離着陸を行ない、注目された。 もともと、欧州各国は冷戦時代に国土が戦場となる可能性に備え、空軍基地が破壊された場合の代替滑走路として高速道路を活用するアイデアを持っている。ソ連崩壊とともにその脅威も薄れたが、ロシアによるウクライナ侵攻以後、再び現実的な脅威として認識されるようなった。スイス軍は今回の訓練実施の理由として「欧州の安全保障環境悪化」を挙げている。
高速道路なら、どこでも滑走路にできる?
さて、読者の皆さんは「ある程度の幅がある直線道路なら、どこでも滑走路として使うことができるのだろうか?」と疑問に思われたかもしれない。答えは「No」だ。いくつか理由があるが、もっとも大きな問題は路面の強度だ。アスファルトやコンクリートに充分な厚みが無いと、着陸の衝撃と重量によって戦闘機の降着装置がめり込んでしまうのだ。 冷戦時代の最前線であったドイツとポーランド、北欧スウェーデンやフィンランドでは、一部の高速道路が代替滑走路としての利用を前提として作られている。スイスも、訓練は長く行なっていなかったが、滑走路利用可能な高速道路を国内にいくつも建設している。