イトーヨーカ堂が「リテールメディア」事業を加速、「広告に頼らない」独自マーケティングに挑む理由
■ リテールメディアで売り上げを拡大する「米国の巨大EC」 ──米国に目を向けると、世界最大のリテールメディア市場が急成長を続けており、2027年には現在の2倍以上に成長すると見込まれています。なぜ、米国のリテールメディアはこれほど急速に伸びているのでしょうか。 望月 米国にはアマゾンのような巨大なECマーケットがあります。彼らがリテールメディアを活用して売り上げを増やしているため、他の小売りも追随しているのだと思います。 また、米国では大手小売企業が市場を寡占していることも、リテールメディア市場の急成長に一役買っています。例えば、米国の食品小売り業界は、大手企業による市場占有率が非常に高いことで知られています。 日本では、2021 年時点の総合スーパーの上位4社の市場占有率は63.3%です。それに対して、同じ年の米国の「ハイパーマーケット」と呼ばれる大型スーパーのシェアは、上位4社が98.8%を占めます。つまり、米国のメーカー各社にとっては、大型スーパーを擁する大手企業と組むことが、ビジネスを飛躍的に成長させるカギとなるのです。 こうした背景があり、大手小売企業のリテールメディアに広告を出稿するメーカーが増え、市場が急速に拡大しているのだと考えられます。 ──では、市場の環境が異なる日本でリテールメディアを成長させていくためには何が必要でしょうか。 望月 日本は、大手小売企業が米国ほどマーケットシェアを占有していません。そのため、小売企業はメーカー各社が参画したくなるような仕組みを作る必要があると思います。 また、米国とは異なり、日本の小売業界のEC利用率はまだ低く、市場全体に占めるECの取引額の割合を示す「EC化率」は10%未満です。日本の小売企業のウェブサイトというと、店舗情報などが掲載されたコーポレートサイトが一般的であり、お客さまがウェブサイトを見る目的は「店舗検索」か「デジタルチラシの閲覧」がほとんどです。オンラインストアのシェアが高い米国とは、小売企業とお客さまとの接点がそもそも違うのです。 リテールメディアを十分に活用するためには、実店舗の売り場やECサイトの実情を踏まえたビジョンや戦略が必要です。店頭のサイネージなのか、タブレット付きのカートなのか、アプリ内の広告なのか、フリーペーパーのような紙媒体なのか、選択肢や組み合わせはさまざまです。いずれの場合においても、EC広告だけに頼らない、日本独自のリテールメディアのあり方を追求する必要があります。