なぜ“史上最強”積水化学は負けたのか。新谷仁美が話すクイーンズ駅伝の敗因と、支える側の意思<RS of the Year 2024>
ファクトで見る積水化学が敗れた理由
積水化学が準優勝に終わった理由を、ファクトで並べるのは簡単だ。 まず、JP日本郵政グループが強かった。JP日本郵政グループはエース廣中璃梨佳がケガから復帰。今季初戦がこの駅伝で、実力が読み切れなかった。廣中復帰も一つのポイントだが、4区での新加入カリバ・カロラインの2位・積水化学に22秒差をつけた走り、そして、6区アンカー太田琴菜が優勝への思いを強く持った素晴らしい走りがあった。この6区のタイミングでの区間賞は最高の出来であり、その走りは本当に力強かった。 いわゆる下馬評とは、今シーズンのレース結果から予想されるが、JP日本郵政グループの“今季初戦ともいえるようなメンバーがここまで走るとは思わなかった”のは、他チームも同じ感想だろう。高橋昌彦監督のマネジメントの成果であり、彼自身も「優勝するにはちょっと力が足りないかなと思っていた中で、1区から本当にみんなが良い競り合いをしてくれた」「最高の優勝」と選手たちを称えている。 また、積水化学のそれぞれが、実力以上の“らしさ”を出せなかったのもある。序盤こそ良かったが、2~3人に抜かれても粘れたところが、今回はつけなかった。22秒差を追いついた5区新谷の走りは見事だったが、そこから突き放すような爆発力はなかった(相対した鈴木亜由子の闘争心は素晴らしかった)。アンカー森は近年、レース中盤以降でグッと前に出るクレバーな走りを見せていたが、JP日本郵政グループ太田の勢いはそれを凌駕した。 それらは、結果を見ればわかるファクト(事実)だ。しかし、今後のため重要なのはファクター(要因)だ。新谷仁美はそれを、「いろんな意味で過信していた部分があった」と言う。
悪い意味でチームを信じ過ぎていた
新谷仁美は、慎重に言葉を選びながら答える。 「悪い意味でチームを信じ過ぎていたなって。信じるのは必要なことですが、甘え、すがっていたところがあったのかなって」 「1つ目はその甘えによって、自分の力を過信したりして、勝手な良いイメージしか想像できてなかった。それがいざ走ってみたら全然違う走りの感覚になって、どんどん自分のレースができなくなってしまった。レース中に自分の走りからどんどん遠ざかっていった結果かなと」 「2つ目は、今年の積水は、個人でも成績を残してきたからこそ、前評判では圧勝っていう強さを私も感じていた。そこは自信を持っていいなと思っていた。でも、その自信によって、周りのチームを甘く見ていたのが、負けた敗因だったのかなと思います」 こういうときの新谷の発言には、はっとさせられる。また来年、しっかり結果を出したい。そう思うのが選手の常だとしても、彼女はその前段階をまず考えるのだ。 「私は、チャンスがそもそも何度もあると思っていないんです。すぐ切り替えられる選手もいれば、なかなか切り替えられない選手もいるかもしれないけど、時間は刻々と経っている。どんな状況だろうと、結果が出なければすべてがたぶん言い訳になっちゃうので、ここで走ってる以上は働いているのと同じ。私も含めて、責任を持ってやらないといけないなと思います」と、走れることは当然ではないと、覚悟を口にする。 レース後、所属企業の役員・社員たちを集めた会合の場で、新谷は頭を下げた。 「来年があると、私は思っていません。明日また同じような環境で挑戦できるとは思っていません。私たちの活動がどうなるかわからないという危機感を持ちながら、それでも、来年また来たいと思っています。図々しいお願いかもしれませんが、今後もよろしくお願いします」 その姿からは、選手のみならず人として強さを感じられた。