「不法移民のままなら安く雇える」アメリカの総人口の3%・1100万人にも達する不法移民をめぐる人権尊重と自国本位のアンビバレント
雇う側の事情が反映される「聖域都市」
しかし、もしそうなら何故に民主党は彼らの滞在を許そうとしてきたのか。 その公式の理由は「人道支援」となっているが、不法移民の実態を丁寧にレポートした田原徳容氏の『ルポ不法移民とトランプの闘い』(光文社新書、2018年)を読めば、それによって利益を得る受け入れ側の意向が反映されていると深読みせざるを得ない。 田原氏自身はどちらかというと、移民受け入れに好意的であるが、それでも、インド人不法移民を低賃金で雇っているIT企業の例、テキサス州やネブラスカ州の農業や畜産業で働いた不法移民の例、ハリケーン・カトリーナからの復興で一気に人手不足となった折に人手が不法移民によって賄われたという例などがある。 実際、「聖域都市」と言われる都市の分布をウィキペディア英語版で調べると、一部に例外があっても、やはり全体として「雇う側」の事情が大きく反映されているようにしか見えない。 たとえば、「雇う側」が集中する西海岸とニューイングランド、シカゴのあるイリノイ州などが「聖域都市優遇州」となっている一方で、ほぼすべての南部諸州は「聖域都市禁止州」となっている。 ちなみにアメリカでは個人商店を含め「従業員募集中」との張り紙をいたるところで見ることができる。先のDACAという制度を使った滞在不法移民数はロサンゼルスだけですでに22万人、テキサスでも12万人に及んでいるという。
「不法移民」のままなら安く使える
したがって、いかに「人権尊重」という衣を着てはいても、こうした大量の不法移民の受け入れの本当の目的は彼らを雇うことによる特殊な利益が直接的には企業家たちに、間接的にはそれらの地の住民たちにあるのではないかと私には思われる。 彼らを完全に「アメリカ国民」にしてしまえば、「アメリカ国民」と同等の賃金を払わなければならなくなる、が、「不法移民」のままにしておけば安く使える。 したがって、彼らを追放してはならず、「不法移民」として滞在させるのがベスト、という制度である。 つまるところ、アメリカのために外国をいかにうまく使うかという目的から選択された社会制度であって、種類は違っても貿易や外交、軍事で日本がうまく使われているのと同じである。 ただし、この点ではトランプはこの「人権尊重」よりも彼らによって雇用が奪われるアメリカ国民の側の利益を代弁しようとした。カマラ・ハリスを筆頭とする民主党側とはここが違っていたのである。 こうして考えると、本当のところ、「自国本位」なのはトランプだけではなくカマラ・ハリスを含む民主党の側でもあった。トランプは「アメリカ・ファースト」という言葉を掲げて「自国本位」を明示したが、明示をせずに「世界に貢献」といっている側も本当は「自国本位」であった。 今後にもし民主党政権が復活したとしてもその本質が変わらないこと、そんなアメリカに今後も変わらず従属して良いかどうかを問いたいのはこのためである。 写真/shutterstock
---------- 大西広(おおにし ひろし) ----------
大西広