野木亜紀子の社会派エンタメの真骨頂! 沖縄の事件を通して日本の社会問題を描く『連続ドラマW フェンス』
タイトル“フェンス”に込められた様々な垣根や境界
タイトルのフェンスとは、直接的には劇中で何度も主人公たちの前に立ち塞がる米軍基地を囲う鉄柵だが、それだけではなく、沖縄と本土、日本とアメリカ、性別、人種、世代、心などの垣根や境界も指す。それは主人公二人の間にもあり、見ているうちにさまざまな“フェンス”の存在を意識することになる。それを越えるためには、どうすべきか。沖縄で起きている問題だけでなく、ジェンダーや人種の問題なども描いているが、決して答えを出しているわけではない。沖縄の人々の考え方から、日米地位協定がどのような問題を起こしているのかまで、知らなかったことを学ぶ機会や、考えるきっかけを与えてくれる。劇中で、ある米兵が基地外で犯した罪により、軍内部で処分を受けた際、処罰の軽さに不公平感を漏らす日本人に対して、米兵が「私たちは日本を守っているのに、なぜ?」と問いかける姿は、日本とアメリカの関係性や考え方の違いを象徴していて、ドキッとさせられた。とはいえ、本作はそれらをあくまでエンタメとして描いており、説教臭さや堅苦しさは全くない。主人公二人と共に二転三転する事件の謎を追う中で、社会問題を自然と身近に感じられるような、見事な社会派エンタメとなっている。 映像特典に収録された第1話の完成披露試写会舞台挨拶で野木は、本作の成り立ちを明かしている。NHKで2018年に『フェイクニュース』を執筆した野木は、そのプロデューサーだった北野拓から、まず2020年頃に脚本執筆を打診された。沖縄支局で記者経験のある北野は沖縄が舞台のドラマが念願だったそうで、日米地位協定が絡む事件を描く男女バディの刑事ものを提案されたが、当時の野木は『MIU404』を執筆したばかりで、一度はお断りしたという。確かに当時の野木は、脚本を務めた映画「罪の声」(20)も公開され、2021年新春放送のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』や2022年公開のアニメ映画『犬王』などの脚本も仕上げた後で、かなり忙しくしてきたため少し休養したいとも当時の取材時に語っていた。 しかしその後、WOWOWのプロデューサーで沖縄出身の高江洲義貴が加わり、放送も決まったことから、「作品作りは座組とタイミングが大切で、これ以上の座組はない」と感じた野木は、執筆を決断したという。そうしてWOWOWとNHKエンタープライズの共同製作ドラマとなったわけだが、物語は性的暴行事件を追うことから、いろんな世代の女性が出てくる物語にしたいと、主人公も女性バディに変わっていったそう。そんな経緯が、映像特典で語られている。