奈良の鹿は「神の使い」…なのに虐待? 保護団体、収容しすぎで過密、栄養不足 背景に深刻な農業被害
奈良公園を訪れると、観光客から渡されたせんべいを勢いよく食べる鹿の姿が見られる。餌を見つけて一目散に駆け寄り、けなげにお辞儀をするような仕草を見せる度、歓声が上がる。この公園には、およそ1200頭以上が生息している。 奈良県、シカ収容環境「不適切」 保護の在り方検討へ 11月
奈良と鹿の関わりは長い。春日大社には奈良時代の768年、祭神である武甕槌命が鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)から白鹿に乗って奈良市の御蓋山の山頂に降り立ったという言い伝えがある。この白鹿の子孫とされているのが奈良の鹿で、「神の使い」として大切にされてきた。現在は文化財保護法により天然記念物に指定され、保護が強化されている。 ところが、奈良のある場所では鹿が過剰収容され、栄養が足りず「虐待されている」と獣医師から指摘されている。しかも、収容しているのは奈良の鹿を保護する団体。一体なぜ、そんなことが起きているのか。(共同通信=佐藤高立、大河原璃子) ▽奈良の鹿は独自の遺伝子型 奈良公園の鹿は、独自の遺伝子型を持つことが分かっている。福島大などの研究チームは三重、京都、奈良、和歌山の4府県で野生のシカ294頭分の筋肉や血液を収集し、母から子に遺伝するミトコンドリアDNAなどを解析した。結果、遺伝子型は全部で18種確認されたが、奈良公園のシカはこのうちある1種。しかも、この遺伝子型は他の地域では見られないものだった。
なぜなのか。研究チームに参加し、論文を執筆した福島大の高木俊人客員研究員(27)は指摘する。「森林の伐採や狩猟でシカが減る一方、奈良公園のシカは人間によって保護されることで独自の遺伝子型をもった」 ただ、長く守られてきた奈良の鹿も、絶滅の危機に瀕したことがある。太平洋戦争の影響による食糧難で鹿の密猟が多発し、約80頭まで激減した。この時、保護活動に乗り出したのが「奈良の鹿愛護会」の前身の団体だった。 ▽柵の中でやせ細る鹿たち この愛護会が運営する保護施設が「鹿苑」。問題は、このうち「特別柵」と呼ばれるエリアで起きた。奈良の鹿は、地域ごとに保護のされ方が異なっている。奈良公園周辺は「重点保護地区」「保護地区」で、市街地や山間部は「管理地区」。その中間が「緩衝地区」であり、特別柵には、この緩衝地区で農業被害を起こして生け捕りされた約270頭(11月24日時点)が収容されている。 今年8~9月、特別柵の鹿で虐待の疑いがあるとの通報が、奈良県や奈良市にあった。通報したのは獣医師の丸子理恵さん。