奈良の鹿は「神の使い」…なのに虐待? 保護団体、収容しすぎで過密、栄養不足 背景に深刻な農業被害
丸子さんは「特別柵の中では餌の量や栄養が十分でなく、鹿がやせて肋骨や骨盤が浮き出し、毛も抜けている」と指摘。栄養不足で肺炎を患う鹿が多く、年間50頭以上が死んでいるとし、怒りを込めて語った。「これはネグレクト。立派な虐待にあたる」 問題を受け、奈良県と奈良市はそれぞれ調査に乗り出した。 その結果、県は動物福祉に関する国際指標に照らし、柵内のシカの多くは栄養不足でやせ、水飲み場が汚れているなど不適切な環境で飼育されていると判断した。また過密に収容されている現状も指摘し、日陰や雨よけも限られるため密集してしまう状況だったと非難した。 市は11日24日、記者会見を開き、県と同様に過密な飼育状況や不衛生な水飲み場の状態などを報告。助言役として調査に参加した日本獣医生命科学大の田中亜紀特任教授は「虐待には当たらない」と述べた一方で、柵内が過密であることに触れ、踏み込んだ発言をした。 「動物福祉を守るため、獣医療の一環としての安楽死や駆除は検討されるべきだ」
▽「稲穂をかじられ、実がない状態に」 ところで、なぜ保護を担う愛護会が、鹿を死ぬまで柵に閉じ込める「永久収容」を続けているのか。背景には、深刻な農業被害がある。 奈良公園周辺で稲作を営む生駒堅治さん(73)が実態を明かす。 「汁がおいしいのか、例年8月末には鹿が穂をかじってしまう。そうすると育っても実がない状態になる」 生駒さんは、鹿の被害に遭った農家でつくる「鹿害阻止農家組合」で組合長を務めている。シカが自由に出入りするのを防ぐため「防鹿柵」は総延長55キロ以上に及ぶとされるが、それでも対策は十分ではない。昨年9月の奈良県のアンケートでは、奈良市東部の7割の農家がシカの被害があると回答した。 裁判も起きている。1979年以降、春日大社や奈良市などを相手に、農家が賠償を求める訴訟を起こしている。(1985年に和解) さらなる被害を防ぐため、山間部では条件付きで殺処分は許可される、との基準が示されたが、天然記念物のため抵抗は根強く、実際は進まなかった。