HR王巡って阪神中日が“極秘会談” 満塁なのに敬遠…波紋呼んだ四球合戦
シーズンラスト2試合は直接対決…2人とも全打席四球だった
そして、そのまま迎えたのが中日、阪神の直接対決2試合だ。10月3日はナゴヤ球場、10月5日は甲子園で行われ、両球団ともにシーズンラスト2試合という巡り合わせ。本塁打王争いが注目されたところで、繰り広げられたのが四球合戦だった。2人はいずれの試合も5打席連続四球。宇野氏は3日の試合で満塁でも勝負してもらえず、押し出し四球で打点1も記録した。結局、両者が37本でタイトルを分け合う結果になった。 「この件もいろいろな話が出るんだけどさ、阪神監督の安藤(統男)さんと中日(監督)の山内(一弘)さん、それに掛布さんもそれまでにタイトルを獲っているから加わって、どうするかって話をしていたって聞いたよ。俺は若かったから入ってなかったんだけどね」。そこで決まったのがお互い勝負しないということだった。 「俺は別に全然、勝負してもいいんじゃないのって思っていた。でも順位も決まっていたし、チームでそうするってことでね。バッターボックスに立って、無茶苦茶、複雑だったなぁ。まぁ、まぁ、どうなんだろうねぇ。賛否もあったよねぇ」。宇野氏は当時を思い出しながら話したが、こうも付け加えた。「俺が獲ったタイトルってそれしかないんだよね。今思えば、あの時獲れてよかったなってね。当時はまだ若いから、またそういうことがあるだろうなんて思っていたからね」。 宇野氏はその翌年の1985年に前年を上回る41本塁打を放った。これが、いまだに破られていないNPB遊撃手の最多本塁打記録となるのだが、この時は本塁打王を獲得できなかった。阪神のランディ・バース内野手が54本塁打でキングになった。「俺の本数は増えてもバースがいたからねぇ……」。これも巡り合わせで、振り返れば1984年のタイトルは宇野氏にとって貴重なもの。当時は複雑だった四球合戦も今ではプラスにとらえているようだ。
山口真司 / Shinji Yamaguchi