“不良”と貼られたビールに覚えた「義母」への違和感。介護経験は自分の老いを知る機会でもあった
親の介護で夫婦喧嘩をしないための「交換条件」
――その後、一時自宅に義母を自宅に引きとり、ケアマネージャーさんとのやりとりなど、かなり村井さんが介護を担っていたかと思います。「夫」についてはどう思っていたのでしょうか? 村井:自分がやる方が早いって思ってました。とはいえ、腹は立ちます。だから夫とケンカはすごくしました。「あんたの親じゃないか」って。でも彼からすると、「いや、俺は会社に行かなくちゃしょうがないし、あなたは家で仕事できるんだから、ちょっとごめんだけど、お願い」みたいな感じですよね。 夫に「フリーランスで家にいるんだから(やって)」って言われたのは一生忘れないぞ、っていうのはあります。それって1から10までバカにしてますから。だからよくケンカしてます。認識がおかしいよって。 ――やっぱり夫婦喧嘩はしてしまいますよね…。 村井:黙ってやってあげるとたまってしまう。だからうちではお互いに「条件」を出し合っています。私の場合は、本を出すというのも条件の1つ。介護はやりますけど、その代わりにエッセイに書きますよって。夫はちょっと悩んでから「いいよ」と言いました。交換条件です。 週末も私がだいたい2週間に1回は義父母宅へ行っているのですが、車でうちに帰ってきたとたん、ドアを開けた瞬間から夫に話します。「今日はこれこれこんなことがあって~」って、全部うわーって話します。黙ってはやらない。 でも私は、介護がけっして難しいことばかりではないとも思っているんですよね。結構おもしろいこともいっぱいある。知らない世界なので、それを見ることの楽しさっていうのもあるし、純粋に興味もある。認知症がどのように進行していって、どのような感じに人間が変わって行くのかというのを間近に見られるのは貴重ですよね。 ――介護を通してなにか変化などありましたか? 村井:みんな誰でも、介護をするか、されるか、もしくは両方か…必ずありますよね。だれひとりとして「老い」から逃れることはできない。今は、自分が動けなくなるとは夢にも思っていないかもしれないけれど、でも、70とか80歳過ぎたら、少しオーバーかもしれませんが、一回転んでしまったら、どうなるかわからない。 夫も、すごく先のことを考えるようになりました。普段は目を背けているけど、“介護経験”は自分も老いるということを知る機会だと思います。だから、自分も介護される側になったときにどうなるのかを、もしかしたら義両親を通して、今シミュレーションしているのかもしれないですね。
ESSEonline編集部