「自腹を我慢したほうが得」年40万円も自腹を切る私立高教師が訴える窮状
自腹にも“積極的、消極的、脅迫的”の3種がある
授業の教材から部活用品、未払い金の立て替えまで自腹は多岐にわたる。自腹を切る理由を掘り下げると3つのカテゴリーに分類できるという。 「『積極的自腹』は、生徒のために、より良い環境のために自主的に行うもの。対して、慣習としてやむを得ずに同意しているものは『消極的自腹』で、これがエスカレートして強制的に発生するのが『強迫的自腹』だと分析しています。日本の教育現場には、足並みを揃えることや、こうあるべきだという同調圧力が強く働く傾向があるので、拒否することもできずに自腹で支払うしかない状況が多いのです」 近年、東京では全ての高校の授業料の無償化や、公立小中学校の給食費の無償化へと動き始めた。だが、福嶋氏は「冷ややかな目で見ている学校関係者もいますよ」と指摘。 「保護者の経済負担は軽くなりますが、教師の負担が軽くなるとは思えないです。それよりも、自治体が配賦する公費の予算を増やして、公費使用の手続きのガイドラインを文部科学省が統一的に示すことのほうが先決だと思います」 複雑な事情が絡み合った教師の自腹問題だが、改善するためにはどうすればいいのか。 「自腹は周りに影響を及ぼすことを知り、やめられる自腹から控えていくことです。『生徒が喜ぶから』と安易な理由で自腹を切ると、『それが当たり前』という空気ができ、みんなが苦しむことになる。この問題が広がることで、世間でも自腹は仕方ないという風潮が変わってほしいです」
費用別・年間自腹額と発生率
先述の『教師の自腹』が、公立小中学校教職員1034人に対して行ったアンケートの結果を基に作成したのが以下である。 Q.自腹は個人の自由? それとも規制すべき? 自腹は個人の自由と考える人が4割に対して、約6割は自腹を規制すべきと回答。教職員の間でも自腹についての考え方が分かれた。 Q.1年間で自腹を切ったことがありますか? 授業の教材費や部活に関わる費用、車のガソリン代など、8割近くが自腹を経験。ちなみに教師の給食費はほとんどが自腹で払っている。 •旅費に関する自腹 通勤時の交通費や出張費用などエリアでも自腹額に差が出やすい。「なかには人事異動で家が見つからずにホテル滞在費が自腹というケースも」 最大額……18万2000円 中央値……3000円 平均値……6939円 経験者数……384人 発生率……37.1% •授業に関する自腹 約6割の教員が授業で使う教材や消耗品を学期ごとに自腹で購入しているという。正規教員と非正規教員でも年間の自腹額に差はなかった 最大額……100万円 中央値……5000円 平均値……1万3526円 経験者数……608人 発生率……58.8% •弁償・代償に関する自腹 発生率は約7%と少ないが、生徒が壊した物損の弁償など高額な自腹が多かった。管理職は現場教師と比べ、小中学校ともに発生率は2倍以上に 最大額……8万円 中央値……5000円 平均値……9822円 経験者数……69人 発生率……6.7% •部活に関する自腹 発生率が2割強と低いのは部活がない小学校の教職員を含めたデータだから。「中学校の教職員に絞れば自腹額も発生率もさらに高いはず」 最大額……10万円 中央値……5000円 平均値……1万3017円 経験者数……234人 発生率……22.6% 【教育行政学者・福嶋尚子氏】 千葉工業大学准教授。研究分野は学校財務や学校評価など。「隠れ教育費」研究室のメンバー。共著に『教師の自腹』(東洋館出版社) 取材・文/週刊SPA!編集部 写真/PIXTA ―[[教師の自腹]残酷な現場ルポ]―
日刊SPA!