「人はなぜ、グチグチ悩むのか」その答えは約60年活躍し続ける草野仁にあった【精神科医・和田秀樹が解説】
草野仁の“太陽のようなパワー”はどこから生まれるのか。東大の先輩・草野と後輩・和田秀樹が“人間のエネルギー”に迫る。『80歳の壁』著者が“長生きの真意”に迫る連載。4回目。 【写真】草野仁×和田秀樹、対談の様子
人の心をつかむ
草野 記憶力の話でいつも思い出すのは田中角栄さんです。 和田 役人の誕生日なんかをよく覚えていたらしいですね。 草野 はい。数字を印象的に使われる方でした。例えば「来年の予算の中でこの部門に使うお金は何億何千万何千何円になった」と一発だけ、ものすごく詳細な数字を言うんです。聞いてる人は「へえ、よくそんな細かい金額まで覚えてるなあ」と感心しますよね。 和田 国家予算を真剣に検討しているという印象になる。うまいですね。 草野 はい。ところが、角栄さんの後輩だった有力政治家の方は、うまくなかった。その方が山形に遊説に行く際に、朝から取材でご一緒したことがありました。講演の際には、角栄さんのように「□□の費用が何億何千万何千何円になった」と細かい数字を言うので、聴衆も「おお、すごい」となります。 和田 親分の真似ですね。 草野 ところが角栄さんと違うのは、ひとつの講演の中で、この詳細な数字を2回も3回も言ってしまうんです。すると聴衆は「またその数字?」みたいになり、感動がなくなるんですよ。結局、聞き終わって頭に残るのは「なんかピンとこないなあ」という印象だけ。そんなケースを目の当たりにして、数字の使い方ひとつでも、人気に違いが出てくるのだと学びましたね。 和田 やはり田中角栄という人は、人を惹きつけるツボを心得ていたんでしょうね。中身があるかどうかは別ですが…。役人の誕生日を覚えてるのも、それが心をつかむポイントだとわかっていたのだと思います。 草野 仰る通りですね。 和田 草野さんの仕事も良好な人間関係で成り立つのでしょう。やはり人の心をガッチリつかんでいるから、今でもずっと仕事が続いていると思うのですが。 草野 いえいえ。 和田 引退を考えたことは? 草野 幸い、まだ体力があるので「もうやめようかな」などとは考えません。でも、少し違う仕事にも目を向けてみたいな、という思いは少しあります。 和田 どんなことに興味が? 草野 人材の育成事業とか…。そういう形のものができたらいいかなと。 和田 それは素晴らしい。やはり草野さんは、前向きに生きる手本みたいな方ですよね。お会いするだけで、こちらまで元気になってくる(笑)。ネガティブになることはないんですか。 草野 やはりね、うまくいかなかったりした時は、そういう気分になることもありますよ。 和田 意外ですね(笑)。 草野 ハハハ。根が努力をしないタイプだから、せめて気持ちを切り替えようと。 和田 それは大事ですね。 草野 悩みごとを抱えて寝床に入り、ずっとそれを考えて眠れなくなる。そういう人は多いと思います。だけど、それは体のためにもよくない。しかも考えたって、いい解決策が出るとは限らない。ならば「よし! 明日は今日よりも必ずいい日になる」と思い込んで睡眠に集中する。そうやって割り切ると、自然に深い眠りに入れます。