作家・渡辺淳一没後10年、浅田次郎が思い出を語る「正直で、華やかな方でした」
『阿寒に果つ』『ひとひらの雪』『失楽園』『鈍感力』などで知られる作家・渡辺淳一さんを偲ぶ「ひとひら忌」が2024年4月19日、都内で開催された。この会は、渡辺さんが2014年4月30日に79歳で死去して以来、〈藪の会〉と呼ばれる担当編集者らを中心に開催されてきた。没後10年にあたる今年は、直木賞や中央公論文芸賞などで共に選考委員を務めた作家の浅田次郎さんが、会の冒頭で在りし日の渡辺さんとの思い出を語った 【写真】着物姿で原稿用紙に向かう渡辺淳一さん * * * * * * * ◆渡辺淳一と三島由紀夫の共通点 私は元来「不義理不人情」でして、今回「渡辺淳一先生没後10年の年に講演を」と声がかかった時には「まさかこれまで9回欠席していきなり講演をすることになるのか」と思ったのですが、毎年この会に参加する作家は講演者1人ずつだそうで、一安心いたしました。 渡辺淳一先生は昭和8年生まれで、私の母と同い年でした。私も作家になる前の20代の頃から、先生の作品をよく読ませていただきました。時折新聞広告で見かけるお姿は、当時の文学青年たちが憧れた文士の風貌そのものでした。 大先輩に向かって生意気ですが、御作を読み進めるにつれ「正直な作家」という印象を強く持ちました。小説において、まったくの嘘話を書かない。自分の体験したこと、あるいはその周辺のことを小説とする書き手だと感じていました。 私は特に初期の医療ものの小説が好きでした。渡辺先生はご自身が医師でしたので、実際に見聞きされたであろう現場の風景からは、小説にとって大事なことを教えてもらいました。私は濫読なもので、タイトルを思い出せないのですが、若い医者が心臓マッサージをしながら話し合う作品があるんです。こんな場面でも人間がこんな話をするのか、と強く印象に残っています。 さらに前の世代にさかのぼると、三島由紀夫が同様の作家だったように思います。三島さんの代表作と言われる作品は、自分の至近に起きたことや、何か実際に起きた事柄を元にしたものが多いです。一方の私は、いかに壮大な嘘話を書くかを日頃から考えているので、真逆のタイプかもしれません。
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