なぜ東京五輪代表最終選考レースのびわ湖毎日は日本記録更新ペースを設定せず多くの招待選手は”打倒大迫”をギブアップしてしまったのか?
なぜなのか? 大会レースディレクターが苦悩の決断理由を明かす。 「ファイナルチャレンジなので日本記録ぺ-スも考えたんです。東京でみなさんがいい感じだったのでペースを上げようかとも。でも予想される天候が厳しい。雨で寒くなる。そういう天候で、つっこんでも選手が疲労します。朝の予想気温は6度とか。日々状況は変わっています。悩ましいところですが…」 レースは8日の午前9時15分スタートだが、当日の天気予報は朝方が雨模様で予想気温も低い。外国人招待選手には、エバンス・チェベト(31、ケニア)、フィレックス・ケモンゲス(24、ウガンダ)、フィレックス・キプロティチ(31、ケニア)と、3人の5分台の自己ベストを持つ高速ランナーを揃え、会見では、チェベトが「記録は2時間6分台。調子よければ2時間5分50秒あたり」と目標タイムを口にしたが、有力選手らと話し合いを行い、「天候のことで(そのペースを)割り切っている」と、遅いペース設定に合意したという。 そもそもびわ湖は記録が出ない。フラットコースだが、びわ湖沿いを走るために強風が邪魔になり、過去の大会記録は2011年にウィルソン・キプサング(ケニア)が出した2時間6分13秒である。 「あの(大迫の)記録は、後半にペースを上げないと出ない。30キロから先で、自分らで上げてくれれば……。去年も雨の中でも後半ペースを上げて7分台が出た」 レースディレクターは、希望的観測を口にしたが、ただでさえ、低速コースなのだから、2時間6分35秒ゴールのペース設定を選手が打ち破るのは不可能に近いだろう。 レース前から、夢のない話になってしまったが、これが、いくらナイキの厚底シューズという”魔法の力”を借りたとしても、自らが持つポテンシャルと練習以上の結果を出すことは難しいマラソンという競技の厳しさなのだ。決して大風呂敷を広げることなく、現実的な目標タイムを真摯に会見で語ってくれた招待選手は、それだけ真剣に真面目にマラソンと向き合ってきた、という証拠ではないか。 大迫が東京五輪代表の最後の1枠を手にすることは、最終選考レースの号砲を聞く前から、ほぼ決定的になってしまったが、大塚、鈴木ら、次のパリ五輪も見据えることのできる若手ランナーにとってはかけがえのない経験になるだろう。 そして今大会には、新型コロナウイルスの暗いニュースばかりが続く日本に、あきらめず戦う姿、元気を届けるという、もうひとつの役割がある。 最後に公務員ランナーからプロランナーに転向した川内の言葉を紹介したい。 「この状況で走れることに感謝したい。”ありがとうございます”の思いを込めた走りをしたい。僕も昨年まで10年間、高校の方で勤務していた。卒業式も迎えられないという人もいて凄く嫌な社会情勢だと思っている。そん中できることは最後まであきらめない、1秒でも早くひとつでも上の順位でゴールする走りを見せること。陸上に限らず、今あらゆるスポーツにできることがある。(陸上をしている学生には)間違った情報や正しい情報が入り混じる中、自分で判断する力、考える力をこれをきっかけに身につけて欲しい。マイナスをプラスにできるような機会にしてもらえればいいなと思っている」 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)