ダメ出しされても「AIのせい」にできる…「お~いお茶」が商品デザイン数百案をAIに任せた「納期短縮」以上の効能
■デザイン分野でのAIイノベーション 生成AIから生まれるビジネス機会への関心が高まっている。2022年にChatGPTが公開されて以降、国内のマーケティングにおいても、生成AIの活用は顧客管理やプロモーションなど、さまざまな領域で広がっている。 【図表をみる】パッケージ・デザイン会社の制作プロセス パッケージ・デザインもそのひとつである。2023年9月にリニューアルを行った伊藤園の「お~いお茶 カテキン緑茶」は、発売後初月には前年比1.6倍の売上げを達成したが、この商品の新パッケージにも生成AIが使われている。 自社開発のAIシステムでこのパッケージ・デザインを担当したのが、社員70人の会社、プラグだ。なぜ大手の広告代理店ではなく、プラグのような規模の専門会社が、デザイン分野でのAIイノベーションを先導できたのか。プラグの小川亮社長にお話を伺った。 ■デザイン生成と評価の2つの機能 プラグは2014年、パッケージ・デザインを手掛けてきたアイ・コーポレーションと、市場調査を手がけてきたCPPの2社が合併して生まれた。これら2つの専門性を武器に、同社は年間200件以上のパッケージ・デザインの制作を手がける。クライアントは、伊藤園のような大手企業が多くを占める。 現在プラグは、デザイン生成とデザイン評価の2つの機能をもつパッケージ制作のためのAIシステム、「Crepo パッケージデザインAI」を提供している。このうちデザイン画像の生成には生成AIの技術が、デザイン評価にはディープ・ラーニング(深層学習)の技術が用いられており、それぞれが実業務においてパッケージ・デザイン案を制作するプロセスと、デザイン案を選定するプロセスに対応している。 なお、プラグも現在のところは、全ての依頼案件にAIを使っているわけではない。それでも、AIがらみの案件は増加傾向にあるという。
■パッケージ・デザインのつくり方 大手メーカーのパッケージ・デザインの制作では、デザイン案を何度も修正し、練り上げていくのが一般的だ。その各ステップでデザインの「制作→選定」が行われ、ステップが進むにつれてデザイン案は絞り込まれ、磨き上げられていく。各ステップにおける選定の際には、アンケートなどによる市場調査の結果が参照されたりもする。こうしたプロセスを経てパッケージのデザインが完成するまでには、数カ月を要することが少なくない。 図表1にその一例を示そう。依頼元のメーカーから聞き取った商品コンセプトをもとに、20のデザイン案をつくって選定を行い(ステップ1)、そこで評価の高かった4つの案をさらに練り上げて、ブラッシュアップした4つのデザインのなかから最終候補を1つ選び(ステップ2)、さらにデザインに磨きをかけて最終選定を行う(ステップ3)。このような流れで制作は進む。 ■AI導入で何が変わったのか プラグの場合、従前の人の手によるデザイン作業では、上記のステップ1までに2~3週間の期間を要していた。さらに、ステップ2に進む前の依頼元による絞り込みをサポートするため、アンケートなどの市場調査を行う場合は、もう1カ月半~2カ月が必要だった。 デザイン生成にAIを導入すれば、20どころか何百という叩き台のデザイン案が数分で手に入る。さらに選定の際にも、デザイン評価用のAIを使えば、アンケートなどの市場調査を行わなくとも客観的評価がすぐに手に入る。その結果、これまで2~3カ月を要していたプロセスの期間が、3日~1週間にまで短縮されることになった。