ダメ出しされても「AIのせい」にできる…「お~いお茶」が商品デザイン数百案をAIに任せた「納期短縮」以上の効能
■選定 デザイン案選定のミーティングの席で、依頼元企業の担当者と制作チームが意見を述べ合う際の自由度も増した。AIがつくったデザイン案であれば、「この案は変だ」と指摘しても誰も傷つかず、気をつかって言葉を選ぶ必要もない。 AIを使うことで人の創造的なコミュニケーションの活性化が起こる。プラグでは、生成AIをデザイン案の制作に使うことで、選定の際の意見をより率直に述べ合うことができるようになったと感じているという。 ■自社が蓄積したデータでAIを「調教」 パッケージ・デザインの評価と生成へのAIの活用において、現在のところ国内においてプラグの強力な競合は現れていない。デザインや市場調査を手がける大手企業がいくつもあるなかで、なぜ小さなプラグが、頭ひとつ抜けだすことができているのだろうか。 その理由のひとつは、評価の局面でも、生成の局面でも、人をしのぐ効果や効率をAIによって生み出すためには、時間をかけて人がAIを「調教」する必要があることである。そのため、他企業は可能性を理解しても、すぐにはキャッチアップできない。 パッケージ・デザインの評価AIを例にとれば、アナログの市場調査でつかんだ「パッケージの画像→人による評価」のデータを、ひたすらAIに学ばせながらチューニングしていく必要がある。この作業を繰り返すことでAIによる評価の精度が上がっていくのだが、それには時間と手間がかかる。この調教活動を、プラグは一足早く始めていた。
■日本市場向けのチューニング 生成AIについても同様である。ChatGPTなどの汎用AIに指示を与えても、使えそうなパッケージ・デザインが提案されることは少ない。それは、ChatGPTが全世界のデータを日々学習しているからである。素のままのChatGPTが提案するのは、日本人にはピンとこないグローバル・ベースのデザインになりやすい。 この問題を回避するためには、日本らしいパッケージの画像を選択的に学習させた、独自のAIを育てていく必要がある。評価AIのチューニングと同様に時間と手間のかかる作業だが、こうした作業もプラグは自社の強みが生かせる領域で積み重ねてきた。 ■大手企業にはない強みはどこにあったか 加えて、プラグの競争戦略上のポジショニングの問題がある。プラグはパッケージ・デザインの制作と市場調査に特化してきた会社である。一方の競合する大手広告代理店などは、リソースは豊富だが、パッケージだけでなく広告やプロダクト・デザインを含む、幅広い領域をカバーしている。 デザイン業務へのAI導入をはかる場合、大手広告代理店などは自らの広い事業領域全体を視野に入れつつ、投資対効果などを慎重に見極めようとする。あいだに、プラグのような小回りのきく会社はとっとと行動を開始する。加えて、デザイン・ビジネスのなかでは、パッケージ・デザインは比較的規模の小さい市場で、大手広告代理店などにとっての開発の優先順位は低くなる。 こうしたポジショニングのもとでプラグは、いち早くAI開発の取り組みをはじめたことで、「小さな池の大きな魚」(新規性の高い小さな市場に先駆けて参入し、そこで高シェアを獲得することで利益を確保すること)を獲得している(小さな池の大きな魚については、栗木契「アイデアに詰まったら“超少数派”に聞け…商品開発の最終兵器『エクストリーマー・リサーチ』とは何か」参照)。