「ツイッター離れ」やイーロン・マスク批判では解決しない…SNSが「怒り」と「対立」を引き起こす“根本的”な原因
ネットではなく現実の問題に目を向ける必要がある
――今後、ソーシャルメディアは社会にどのような影響をもたらすでしょうか。 津田教授:ネット上で関心や注目などの「アテンション」を集めることの効果が、そもそも過大評価されているように感じます。 たとえばツイッターでリベラルな人たちがマイノリティの権利について語り、差別問題についてアテンションを集めたところで、実際に問題が改善されるとは限りません。 むしろ、マイノリティにアテンションが集められることで「マイノリティはみんなから注目されているから優遇されているんだ」という印象を抱かせて、マイノリティに対する敵意を煽る、という側面もあります。 『トランスジェンダー問題』(ショーン・フェイ、明石書店、2022年)という本でも、メディア上のトランスジェンダーに関する話題は必ずしもトランスジェンダー当事者が置かれた状況の改善につながっていない、ということが指摘されていました。 ネット上で人々がなにに関心を持ったりどんな意見を言ったりするかということと、現実の社会や経済で起こっている問題は、イコールではありません。「ソーシャルメディアは世論や社会を反映しているわけではない」ということを一人ひとりが意識して、現実の問題に目を向けるということが大切です。 結論を言えば、ソーシャルメディアの構造、あるいは人間の心理や関心のあり方に問題があるわけですね。「イーロン・マスクが買収したせいでツイッターがひどくなった」と言うだけに留まらず、もっと根本的な問題を直視して考えていくことが必要だと思います。
津田正太郎: 1973年大阪府生まれ。慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授。主要著作に『ナショナリズムとマスメディア─連帯と排除の相克』(単著、勁草書房、2016年)、『メディアは社会を変えるのか─メディア社会論入門』(単著、世界思想杜、2016年)、『共生社会の再構築Ⅱ─デモクラシーと境界線の再定位』(共著、法律文化社、2019年)など。
弁護士JP編集部