「ツイッター離れ」やイーロン・マスク批判では解決しない…SNSが「怒り」と「対立」を引き起こす“根本的”な原因
「自分と異なる意見」に触れることのストレス
――ソーシャルメディアの問題というと、「エコーチェンバー」(閉鎖的な情報空間で意見の似た人どうしが交流し合うことで意見や思想が偏る現象)が原因である、といった議論がよくなされます。 津田教授:私は、そういった議論はやや的外れだと思います。 多くの研究によると、ソーシャルメディアのユーザーはマスメディアのユーザーよりも「自分と異なる意見」に多く触れています。 むしろ、自分の価値観と対立する意見や、自分たちを批判・攻撃する意見に積極的に触れさせられる構造になっているからこそ、ソーシャルメディアは荒れやすくなっているのです。 具体的には、ツイッターでは「引用リツイート」や「ハッシュタグ」などの仕組みによって、自分と異なる意見に触れさせられます。同じような意見の人々ばかりをフォローしていても、フィルターを突破して、自分と異なる意見を目にさせられるのです。こういった構造は、党派間の対立をむしろ悪化させます。 マスメディア研究の歴史をさかのぼると、ラジオの時代から「選択的接触」という現象が確認されていました。自分の好きな情報にだけ触れて、そうではない情報は無視する、自分の好きな人の話は聞くが嫌いな人の話は聞かない、など。 むしろ、昔から、人間は自分と似たような意見を持つ人々に囲まれて生きてきました。敵対的な言論や自分と異なる意見に取り囲まれているという状況のほうが、非常に不自然なのです。
「揉め事」がプラットフォームにもたらす影響
津田教授:いくら環境が変わっても、みんながみんな過激で先鋭化した意見を持つようになるわけではありません。しかし、ソーシャルメディアでは、過激で先鋭化した意見を持つ人ほど目立ちやすくなる、という構図があります。その結果として、ツイッターのようなソーシャルメディアでは対立が顕在化しやすくなっている、という状況があるのでしょう。 ユーザーが「揉める」ことは、ソーシャルメディアを運営・経営するプラットフォーム側にとって必ずしも悪いことではありません。揉め事が発生すると第三者や外野の人たちもついつい興味を示して、揉め事の発信源まで見に行きます。そうやってアクセスやインプレッションが増えることは、プラットフォームにとって利益になります。 しかし、嫌がらせが横行するプラットフォームでは、徐々に人々が退去していってしまいます。そうなると「ユーザー数が増加し、流通する情報の量や種類が増すことで、ユーザー全体の利益が増大する」という、SNSに特有の「ネットワーク効果」が段々と損なわれていきます。もちろん、人がいなくなるというのはプラットフォーム側にとっても不利益となります とはいえ、現時点では、ツイッターには以前からの“貯金”でネットワーク効果が残っています。そのため、多くのユーザーはツイッターに残り続けています。逆に、他の新興SNSには、ツイッターほどのネットワーク効果がまだ存在していません。そのため、ツイッターに対するユーザー側の支持が急に無くなるということはないでしょう。