AIで誤差1cm以内…造船固有の〝匠の技〟、JMUがロボットで自動化に成功
造船固有の“匠の技”といわれる「ぎょう鉄(線状加熱)」。ジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市西区、灘信之社長)は、小型ロボットによる自動化に成功した。大型バラ積み運搬船の建造を主力とする津事業所(津市)で運用をスタート。まだ人手による作業に比べてスピードは遅いが「精度は熟練技能者と遜色ない」(朝戸毅JMU常務執行役員津事業所所長)水準を実現。徐々に適用範囲を広げていく。 【写真】造船の匠の技をロボット化し自動で曲げ加工を行う 大型船は鉄板を1枚ずつ切断して約10万個の部材を作り、曲げ、溶接で接合する。「高度な技量を熟練させていくのが造船業」(朝戸津事業所所長)でありベテラン技能者の腕が重宝される。難しいのが線状加熱だ。鋼板の局所的な加熱によって発生する塑性変形を組み合わせて目的の3次元曲面を形成する技術で、ガスバーナーによる加熱と水冷を繰り返す。鋼板上のどこを、どれくらい加熱するか(加熱方案)は、これまで熟練技能者に委ねられてきた。 今回、JMUが実用化に成功したぎょう鉄ロボットは、1台のパソコンで複数台を扱える。例えば非熟練の技能者1人で「3人分の仕事ができる可能性がある」(同)。JMUは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとして大阪公立大学(柴原研究室)と共同で受託。主に大阪公立大は人工知能(AI)加熱方案生成システム、JMUは小型ロボットを担当して開発・改良を進めてきた。 有限要素法(FEM)シミュレーターで作成した熟練技能者の教師データをAIに学習させ、鋼板上の加熱ポイントなどを特定するAI加熱方案を生成。ロボットが自動で曲げ加工を行う。誤差は1センチメートル以内。現状は安全性や安定性を優先し、ガスバーナーのパワーを落としており、人手に比べて時間を要しているが、改善の余地がある。 現状、長さ10メートルの鋼板で2台の線状加熱小型ロボットを運用しているが、2024年度内に4台に増やし、長さ20メートルの鋼板への対応も視野に入れる。 ただ「全てをロボット化しようとは考えていない」(同)。建造する船種が変われば工程も異なる。外板のサイズや形状、板厚は多種多様で鋼板の搬入や裏面加熱時の反転など作業は多岐にわたる。今後もロボットと協働しながら、精度が求められる重要な鋼板はベテランや中堅が担い、若手への技能伝承、技能向上に注力する。 JMUは別のアプローチも模索する。拡張現実(AR)を活用し、加熱位置を指示する作業支援システムだ。スマートグラスとの組み合わせで実用化を視野に入れる。 韓国や中国の台頭で日本の造船業を取り巻く環境は厳しさを増し、8万人台で推移してきた国内造船業の就労者は22年に6万3000人規模に減少。若者の割合も減り、20-29歳の比率はこの10年間で10ポイント程度低下して22年に約20%に落ち込んだ。技能伝承は喫緊の課題で、先進技術の活用がカギを握る。