Intelの苦境と変わりゆくデバイス――“AIシフト”の影響を受け続けた2024年のテック業界
「AIシフト」による世界観の大転換
PC向けプロセッサ(CPU)が半導体市場で最も大きな存在感を持っていた時代、IntelはPC/サーバ向けCPUを主な収益源に据え、その販売で得られた資金を先端技術開発に投資することで安定成長を続けていた。 2010年以降、そのキャッシュの流れはスマホやタブレットに流れ始めたが、IntelのCPU事業は縮小したわけではない。同社は引き続き大きな存在を放っていたが、2020年代に入ると、スマホやタブレットの高性能化/普及を経て、CPU/SoC市場はある意味で“成熟”した。 デロイトトーマツのレポート「Technology, Media and Telecommunications Predictions 2024」によると、PC/サーバ向け半導体の市場は、年間およそ400億ドルで微増傾向を続けているという。一方で、生成AI向けにデータセンターなどで使われるチップ(GPUやAIアクセラレーター)は既に500億ドルの市場を形成し、今後数年で2~3倍に成長すると予想されている。 クラウドだけではなく、エッジ(端末)でもニューラルネットワーク推論が主要な価値となり、半導体の主な投資対象はもはやCPUではなくなったのだ。 この生成AI向け半導体では、NVIDIAがプラットフォームとして突出した成功を収めている一方で、AMDがそこに追随しようとしている構図ができている。IntelはAIの学習と推論に特化した「Intel Gaudiシリーズ」で挽回を狙っているが、2社と比べると遅れを取った面は否めない。 巨額投資による先端技術開発の成果が見えず、ゲルシンガー体制の下では自社開発した先端の半導体製造技術を武器に、半導体のファウンドリ(受託生産)事業の拡充を掲げていたが、ファウンドリとして最先端を行く台湾TSMC(台湾積体電路製造)の技術力に並ぶのは容易ではない。 これは単にIntel固有の問題というわけではなく、半導体業界で起きている“投資対象の大転換”を象徴する。かつてのIntelのように、垂直統合で半導体の価値を引き出す戦略は、ゲルシンガー体制の崩壊によって顧みられることのないものになるだろう。 そしてIntelにとっては、ゲルシンガー体制の元に進めてきた投資の成果を今後、どのように事業価値に転換していくか、難しい舵取りが待っている。 とはいえ、TSMCも盤石かといえば、そうでもない。生産拠点のほとんどが台湾に集中しているからだ。地政学的なリスクを鑑みると、半導体製造技術がTSMC(≒台湾周辺)に集中することも好ましくない。 TSMCも、日本に合弁でJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)を設立するなど、生産拠点を分散させる動きを見せているが、今後は半導体業界全体の大きなテーマとして「リスク分散」は再び議題に挙がる機会が多くなるだろう。