後輩と日本代表で対面。主将経験者・坂手淳史の感慨。
力を持つ言葉だ。 「疲れているなら、もう練習はやめよう!」 指揮官のエディー・ジョーンズが、グロッキー気味かもしれぬ面々へ発破をかけていた。 ラグビー日本代表の宮崎合宿は8月10日に開始していた。 7月下旬まであった現体制初のキャンペーンは1勝4敗。圧力下における失敗を減らす必要性が生じていた。現代表の『超速ラグビー』というコンセプトを念頭に、31歳の坂手淳史が説明する。 「皆でしっかりとレベルアップしないと。足りない部分も言われているので。(先般のゲームでは)ボールを保持しているときのミスが、多かった。それを減らしていいアタックに繋げられれば、『超速』っぽくできる部分も出てくる。そこを、伸ばしていけば」 メディアに公開された11日午後のトレーニングでは、FW、BKのポジション群が分かれて時間差でグラウンドに出た。坂手はFW。突進役とサポート役の低さ、鋭さ、勢いを突き詰めた。ぶつかり合う局面でボールを確実に保護し、素早く後ろに繋げるのを目指す。 「キャリア(突進役)とその周りの仕事(の確認)。イタリア代表戦(7月21日/北海道・札幌ドーム/●14―42)ではその両方でミスがあり、結構、ジャッカル(接点の球に絡む動き)に入られたので」 わずかでも動きに狂いがあれば、ボスに「疲れているなら…」とだめを出されるわけだ。求められる水準は高い。 代表の主将経験者でもある坂手はこう続けた。 「テストマッチでも、疲れる時間帯はある。そこで自分たちがしっかりとやれるように」 初めて日本代表に入ったのは約11年前の2013年。当時は帝京大2年生で、くしくもジョーンズに召集された。 その後、ジェイミー・ジョセフ前ヘッドコーチのもとで昨秋までに2度のワールドカップに出場。いまは約9年ぶりに復帰したジョーンズから、年長者の役目を託される。 代表歴の長い同僚の名を挙げ、現状を語る。 「100パーセント以上の力を出さないとテストマッチでは勝てない。それを、これから経験を積んでいく人に伝えて、ドライブしていけたら、チームはもっと強くなるかなと。ハルさん(立川理道)、(松田)力也、ディラン(・ライリー)、僕など、現時点で経験を多く持っている人間で(役割を全うしたい)」 ワールドカップオーストラリア大会を4年後の2027年とし、チームは若返りを図っているのだ。 直近では現地時間25日より、パシフィック・ネーションズカップへ参加する。北米や環太平洋の国々とのテストマッチ(代表戦)を重ねる。 前回の活動で船頭役だったリーチ マイケルは今回、休養している。リーチをメンターに据えていた坂手は、改めて述べる。 「まず、自分たちがお手本になれるプレーをする。そのうえで、いままでリーチさんが担ってきたメンタリティの部分を少しずつ分担していけたらなと」 競争も強いられている。身長180センチ、体重104キロの眼光鋭いタックラーは、7月までの5戦中3戦でリザーブ入り。先発機会は得られなかった。 自身の務めるHOの位置には、昔の自分のようにぎらつく若手が相次ぎピックアップされている。先のサマーキャンペーンで代表デビューを果たした25歳の原田衛は、関連チームのJAPAN XVで共同主将のひとりとなった。 追い上げてくる若手とのバトルを、熟練者は「楽しいですよ」と捉える。 HOで今回初選出の松岡賢太は、坂手にとっては京都成章高の4学年後輩だ。帰省の折によく母校へ指導に訪れる坂手は、大学時代に高校生の松岡と出会っていた。 「その時は『将来、一緒にできたらいいね』と話していました。(今回は)『やっと、一緒にできたね』です。そういう選手と切磋琢磨できるのは、嬉しいです」 長年、一線級で踏ん張ってきたことで、得られた感慨があった。キャリアを重ねてもなお若々しくいたい。 (文:向 風見也)