「答えじゃなく共感をくれる、演劇というツールの特性が生かされた作品です」~ミュージカル『next to normal』演出家・上田一豪インタビュー~
「自分の色を出すことよりも、作品が素敵に輝くことを考えたい」
――お話を伺っていると、無理に自分の色を出そうとするのではなく、作品とキャストを尊重しようとする姿勢が窺えます。それは演出された舞台を拝見しても常々感じていたことで、偉そうな言い方になりますが、それが演出家・上田一豪の素敵なところだなと。 素敵かどうかは分かんないですけど(笑)、作品を自分の色に染めたい、みたいな欲求がないのは確かですね。オリジナル作品を一から作るとなったら、作家と演出家ってすごく密接だから、演出家も自分の色を出す必要があると思います。でもすでに別の演出家がそれをしたあと、要は“リバイバル”のような形で演出するにあたっては、それをする必要性を感じないし、そこに興味もないんですよね。それよりも、その作品が一番素敵に輝くことを考えたい。 ――では一から、しかも演出だけではなく脚本も担ったオリジナルミュージカル『この世界の片隅に』には、また違う意気込みで臨まれたのでしょうか。 あれも原作がありましたし、自分で企画したわけではないので一からとは言えないところがありますが、“リバイバル”とはやっぱり随分違っていましたね。この原作を自分がミュージカル化するならこうです、という確固たるアイデアを持って脚本を書き、演出していました。漫画原作の舞台では再現性を求められがちですが、それならアニメーションでいいじゃん、漫画が動いてたほうが絶対素敵じゃんって、僕は思うタイプ。舞台化する意味のある構造にしたいという話を最初にさせてもらって、具象ではなく象徴性を取ろう、というコンセプトで進めた作品です。 ――その象徴性が功を奏し、繊細で上品な素晴らしい作品に仕上がっていて感銘を受けたのですが、あまりに繊細であるがゆえに気になっていたのは、創作の過程で「伝わらないかも?」みたいな不安に駆られることはなかったのだろうかと。 伝わらなかったら原作を読んでいただけたらなぁって思ってました。例えば『レ・ミゼラブル』は僕がミュージカルを好きになったきっかけの作品で、今でも大好きだけど、分かるから好きになったわけじゃない。初めて観た時には分からなくてやっぱり僕は原作を読んだんです。ミュージカルとして全てを伝え過ぎて、観客の受け取り方まで限定しちゃう作品より、それぞれが自分なりに受け取れる作品のほうが、僕は好きなんです。作る側としても、どこまでどう伝わるかにチャレンジできるところが、演劇の面白さなのかなと思います。 ――なるほど。そういう意味では『N2N』も、そこにチャレンジしている作品ですよね。 そうですね。渡せるのは多分、「生きてたらこういう事象が起こり得る、けどなんか、諦めなくてもいい、かもしれないよ?」くらいのもので(笑)、答えを提示する作品じゃない。そこも僕の好きなところで、演劇がもたらす“救い”って、答えをもらうことより共感できることにある気がするんですよね。この作品の登場人物たちみたいに、病気とか家族関係で苦しむことって誰にでもあって、それは友達に話すようなことじゃないし、話したところで「大変だね」で終わっちゃうから孤独になる。そんな時、自分と同じように苦しんでる人が、目の前で同じように心を動かしているのを見ることで、自分はひとりじゃないって思えたりすると思うんです。人が心を動かしているのを目の前で見るって、現実で経験するのは難しいから、それが演劇というツールの強さなのかなと。『N2N』はその強さが生かされた、本当に素敵な作品だなあと思っています。 取材・文:町田麻子 <公演情報> ミュージカル『next to normal』 音楽:トム・キット 脚本・歌詞:ブライアン・ヨーキー 訳詞:小林香 演出:上田一豪 【配役:キャスト】 ダイアナ:望海風斗 ゲイブ:甲斐翔真 ダン:渡辺大輔 ナタリー:小向なる ヘンリー:吉高志音 ドクター・マッデン:中河内雅貴 【東京公演】 2024年12月6日(金) ~12月30日(月) 会場:シアタークリエ 【福岡公演】 2025年1月5日(日) ~7日(火) 会場:博多座 【兵庫公演】 2025年1月11日(土) ~13日(月・祝) 会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール