65歳フォトグラファーのパリの家。日本の仕事をリセットしてパリに根を下ろすまで【パリに暮らす日本人マダムvol.3】
大好きなパリと写真が素敵な出会いをくれる
移住して篠さんのライフワークになっていったのが写真を撮ること。現像の道具を一式持ち込み、パリの風景や街で出会った人たちを撮影しながら作品作りに没頭しました。 「写真は趣味で、フォトグラファーになりたいなんて思ってもいませんでした。スタイリスト時代に自分だったらこう撮りたいみたいなものがあったから、自分の視点で撮ることがとにかく楽しくて。山本さんのお手伝いでいろんな現場にも連れて行ってもらい、とっても刺激になりました」 パリに来て1年くらいが経ち、「そろそろ仕事をしないと」と思い始めたころ、雨宮塔子さんの雑誌の連載の撮影オファーが舞い込みました。 「私でいいの?と思いましたが、雨宮さんも文章を本格的に書くのは初めてで、私も写真の勉強を始めたばかり。編集の方の『ふたりの成長の記録にしてください』という言葉に背中をおされてチャレンジさせていただきました。これが私のフォトグラファー人生の始まりです。ですから、雨宮さんとは特別な絆が生まれて、最近もパリで新刊の撮影をさせていただきました」 これをきっかけに、フォトグラファーとして活動の場を広げた篠さん。フランスだけでなく、欧州各国、エジプトやモロッコなどさまざまな国を訪れ、多くの人と出会って撮影してきました。 「アニエス・ベー、フィリップ・ワイズベッカー、ジェーン・バーキン……憧れの人にもたくさん出会えて幸せですね」
個人主義だけど心地いいフランス人の気質がフィット
パリで暮らし始めたころに出会ったフランス人の男性と結婚。10年くらい前に別れましたが、彼との生活からフランス人の気質や向き合い方を学んだと振り返る篠さん。 最初に戸惑ったことは、自分の考えや思っていることを口に出してはっきり伝えること。仕事でもプライベートでも、あのときそう思ったとか、やっぱりというのはルール違反。日本では爆弾発言みたいになるようなことでも、フランスでは普通だと言います。納得がいかないことは議論になりますが、引きずらないので関係性が壊れることはありません。 「フランスは個人主義だけどとってもフレンドリー。アパルトマンの中ですれ違う人とは必ずあいさつをするし、お店では店員さんと声をかけ合います。信号待ちしている時に、道路の向こう側の人と目があったらニッコリ笑顔を交わしたり、知らない人が冗談を言ってきたりすることも。だけど距離感を忘れないから心地いいんですよね。反対に怒りのエネルギーもすごくて、時々びっくりすることもあるけれど、人間らしくて私には合っています」