マイクをバナナに...? 市川紗椰が語る「口パク」に反抗した世界のミュージシャンたち
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、「口パク」に関する逸話を語る。 * * * テレビを見てて、「これ、口パクだ!」と思ったこと、ありますよね? でも、口パクにもさまざまな事情があるようで......。 私が一番好きなのは、1967年に放送されたママス&パパスの名曲『夢のカリフォルニア』のパフォーマンス。アメリカの人気番組『エド・サリヴァン・ショー』の生放送でしたが、番組では音声トラブルを避けるため、生音ではなく音源を流していました。当時のスタンダードとはいえ、口パクに嫌悪感を持ったメンバー。せめてもの抵抗として、めちゃくちゃなパフォーマンスを披露しました。 ミッシェル・フィリップスがマイクの代わりにバナナを握って歌い始めます。しばらくしたら、おもむろにバナナの皮をむき、もぐもぐ。どう見ても歌ってないけど、レコードと変わりないキレイな歌声が流れ続けます。 ほかのメンバーもマイクをぶらぶら振ったりと脱力感のあるパフォーマンスを披露しますが、ママ・キャスだけ全力歌唱。流れてる自分の録音より大きな声で歌い、口パクに対抗しました。『エド・サリヴァン・ショー』の公式ユーチューブでも公開されていますので、気になる方はぜひ。 反抗心だけでなく、薬物の影響も疑われるひと幕ですが、皆さん口パクをリアルに見せる意思が1ミリもないのは確かです。 口パク反逆演奏の例として、イギリス・BBCの代表的な音楽番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』でニルヴァーナが披露した『Smells Like Teen Spirit』のパフォーマンスもあります。番組の口パク強要に激怒したメンバーは、演奏は録音、ボーカルは生歌唱、という妥協案に落ち着きました。 しかしいざ始まると、ボーカルのカート・コバーンがふざけた低音おちゃらけ声で歌唱。あのカッコいいイントロからの"巨人族ボイス"、ずっこけものです。クリス・ノヴォゼリックもありえない低い位置でベースをアテ弾きし、デイヴ・グロウルは適当なドラミングで職務放棄。カートもギターに触れずにエアギター。楽器隊は録音なので、もちろん演奏は完璧ですが。ちなみにカートのおふざけ声がザ・スミスのモリッシーの声に似ていて、なんちゃってスミスのニルヴァーナカバーが疑似体験できます。 同じく『トップ・オブ・ザ・ポップス』からは、オアシスの『Roll With It』。ボーカルのリアム・ギャラガーとギターのノエル・ギャラガーが役割交代し、ノエルが歌、リアムがギターを担当。曲はもちろんいつもどおり。リアムのギターソロにサポートメンバーが爆笑してるのもいい感じ。 口パクへの反乱ではないですが、イギリスのバンド、ミューズがラジオで生演奏したことも思い出します。生放送に向けて、歌詞に含まれている放送禁止用語の変更をお願いされたミューズ。 しかし、演奏予定の曲はそもそも放送禁止用語が使われておらず......。呼んどいて、曲も聴かずに注意してくる番組に怒ったミューズは、あえてBメロとサビでずっと放送禁止用語を連呼しました。器が小さいのか、ロックなのか。ミューズファンの方には、スペインの音楽番組で楽器を交換して口パクに対抗した際の映像も、愉快でオススメです。 ●市川紗椰1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。一番好きなライブ音楽番組は『NHKのど自慢』。公式Instagram【@sayaichikawa.official】