なぜアメリカ人は「陰謀論」を信じやすいのか? 「実話に基づく」とする映画にもある“危うさ”の背景
「幻想を入れるうつわ」
このようにカート・アンダーセンは、アメリカという国は「幻想を入れるうつわ」として大きくなったと指摘している。なるほどと納得する解釈だ。 たしかにアメリカは「なんでも叶う」「ありとあらゆることが起こり得る」という可能性に満ちている。アメリカ史を読むと、本当になにもない荒れ地にやってきて、ここに国を作ろうとゼロからスタートする人びとの異様な熱気が感じられて本当に驚くのだ。 そしてアメリカはまたたく間に巨大化し、世界の中心となった。世界の歴史を見ても、このような大成功はあまりない。こうなれば、アメリカではあらゆることが起こり得ると信じたくなる気持ちもよくわかる。 かつてイギリスから渡ってきた移民は、信教の自由、すなわち「自分の信じたいことを信じる」自由を得るために新大陸へやってきた。そうした国で陰謀論が生まれるのは、ある意味で必然なのかもしれない。なにしろアメリカという国は、どんな幻想でも入ってしまう、とても大きなうつわなのだから。
2021年にはトランプが議会襲撃を煽動
アメリカの原動力は、あらゆる幻想を飲み込んで巨大化する、そのうつわの大きさにあるのかもしれない。 『Xファイル』には「I want to believe(私は信じたい)」という有名な言葉がある。「誰にでも、好きなことを信じる自由がある」というアメリカの特性から考えても、陰謀論はアメリカ国家の成り立ちにかかわる問題なのではないか。 たしかにアメリカには、あらゆる願いが叶う場所、いかなる夢でも現実になる土地という雰囲気がある。そしてそれは、19世紀のカリフォルニアで起きたゴールドラッシュのように、一夜にして途方もない成功が起こり、信じられないような夢が本当に叶ってしまう場合もある。こうしたアメリカらしさと陰謀論とは、切っても切り離せないものであり、表裏一体となっているのではないか。 しかし同時に、陰謀論的な想像力は危険に満ちている。2021年1月、前年の大統領選挙で敗退したドナルド・トランプは「不正選挙だ」「選挙は盗まれた」と民衆にけしかけたが、その煽動によって議事堂に乱入し、暴動を起こした人びとは、「不正選挙」という陰謀論によって結束していたといえる。 トランプはまた、映画『サウンド・オブ・フリーダム』の予告編リンクをSNSに投稿しており、ここにも厄介な陰謀論との関連性が見てとれる。 やはりアメリカは、その成り立ちから陰謀論とともにある国なのだろう。
伊藤聡