なぜアメリカ人は「陰謀論」を信じやすいのか? 「実話に基づく」とする映画にもある“危うさ”の背景
物語が現実を侵食する
私は純粋なドラマ、エンタメとしてワクワクしながら『Xファイル』を見ていたが、アメリカ本国では思わぬ影響を与えてしまっていたようである。『Xファイル』は90年代を通して、アメリカ人に陰謀論教育を施してしまっていたのだ。 ドラマを通じて陰謀論や超常現象、地球外生命体に関する長期の履修を終えたアメリカ人は、2001年にはすでに数多くのUFOの目撃情報を届け出ていたが、2015年にはその数が2001年の241パーセントにまで増えていた。 過去にも、人種差別団体KKKを描いた映画『国民の創生』(1915)が大ヒットし、活動が下火だったKKKを実際に復活させてしまう、といったできごとはあったが、『Xファイル』も同様に、テレビドラマが現実に侵食してしまった例だといえる。 それから数十年後のコロナ禍では、ワクチンに関する根拠のないデマがずいぶんと広まったが、『Xファイル』は90年代の段階で「政府が操る影の組織が、異星人の地球入植に備えてワクチンを開発していた」というエピソードを放送しており、その先見の明(と言っていいのだろうか?)には驚いてしまう。 ワクチンに関するデマの想像力も、あるいは『Xファイル』あたりに起源があるのではないかと思いたくなるほどだ。
アメリカは建国当時から「陰謀論」と共にあった
なぜ、アメリカではこのように陰謀論が広く唱えられ、信じられるのか。 昨今、日本でも陰謀論を口にする人は増えてきたが、さすがにアメリカほどではない。アメリカには長い陰謀論の歴史があるのだ。 ではなぜアメリカなのか。アメリカの陰謀論を研究する著述家のカート・アンダーセンは、著書『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』(2019年、山田明美・山田文 訳、東洋経済新報社)で、アメリカが陰謀論の温床となる理由をこう説明している。 「アメリカの歴史は、知的自由という啓蒙主義的概念を初めて具体化する実験の歴史でもあった。誰にでも、好きなことを信じる自由がある。だが、その考え方が手に負えなくなるほど力を持ってしまった。 わが国が奉じる超個人主義は最初から、壮大な夢、あるいは壮大な幻想と結びついていた。アメリカ人はみな、自分たちにふさわしいユートピアを建設するべく神に選ばれた人間であり、それぞれが想像力と意志とで自由に自分を作り変えられるという幻想である。 つまり、啓蒙主義の刺激的な部分が、合理的で経験主義的な部分を打ち負かしてしまったのだ」 「この国は、一攫千金やユートピアや永遠の命などの幻想を入れる空っぽの容器として始まった。新たな幻想を無限に生み出しても収められるほどの大きな容器である。こんなことは以前にはなかった。 また、ごく普通の人々が主導して荒野から国を造り上げ、その世界を作り変えていった。こんなことも以前にはなかった。 たった1世紀の間に、(白人)アメリカ人の人口は数千人から100万人に増え、それから20~30年ごとに倍増を続けた。これまでにない特異な国は、繁栄の一途をたどっていく。共存する幻想は、わずかな数から数十、やがて数百に増えた。それらの夢は実現しつつあるかに見えた」