米大統領選でアメリカ国民は中絶擁護より経済を選んだのか?(シェリーめぐみ/ジャーナリスト)
【ニューヨークからお届けします】 アメリカ大統領選がトランプ前大統領の勝利で終わったことはご存じの通りです。ざっくりですが、争点を経済と移民問題に絞り込んだことが、勝利の鍵になったとされています。ハリス副大統領も中絶擁護など人権や民主主義の維持を前面に掲げて善戦しましたが、届きませんでした。 衝撃…全米14州で中絶禁止以降、レイプで妊娠した女性は6万5000人 では、アメリカ国民は中絶擁護より経済を選んだのでしょうか? いやそうではないという論調もあります。なぜなら10州で同時に行われた住民投票では、7州で中絶擁護派が勝ったからです。 7州の中でもアリゾナ、ミズーリの2州は、中絶が事実上禁止の州でした。つまりこの住民投票で禁止法が覆ったことになります。他の5州では、今後議会が禁止法を通過させることはできなくなりました。 ところが不思議なことに、同じように中絶擁護を訴えたハリス氏は、この7州のうち、4州で負けています。 この矛盾について、メディアはこう分析しています。ハリス氏は確かに中絶擁護を強く押し出しました。流産したのに中絶と見なされ訴えられた女性や、同じく流産しているのに、中絶と同じ施術が受けられず生死をさまよった女性など、医療の混乱が女性の健康を著しく妨げている。中絶問題は政治問題ではなく医療問題だというメッセージが、ハリス氏のおかげで一気に知られるようになったのです。 そのため、一時は全米規模での中絶禁止を公約していたトランプ氏は、女性有権者を失うのを恐れて、それを口にしなくなりました。 逆に、中絶問題は医療問題と認識した有権者の多くは、ハリス氏に投票する代わりに、住民投票で意思表示し、大統領には経済を強く打ち出したトランプを選んだというわけです。これは中絶禁止のリスクの大きさを暴き出したハリス氏にとっては、皮肉としか言いようがありません。 住民投票の結果、現在事実上中絶が禁止されている州は2週減って、12州となりました。 これを受けて、キリスト教保守勢力は今後、不人気な中絶禁止の代わりに「伝統的な家庭を守る」と言い換えたメッセージを打ち出す所存と言われています。どこかの国でも聞いた事があるフレーズですね。 (シェリーめぐみ/ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家)