益子直美さんが主催するスポーツ大会「監督が怒ってはいけない大会」。子どもたちの成長に本当に必要な指導とは?
――今大会に参加しようと思った理由を教えてください。 久保さん「実は『東京2020パラリンピック』に出場できなかったことがきっかけです。僕は病気の後遺症で体に軽い麻痺が残ってしまい、それからパラアスリートになったんですが、『東京2020パラリンピック』の直前に障害の等級が変わってしまったことで、出場を断念せざるを得ませんでした。そのことをきっかけに『勝利至上主義』について考えるようになり、勝ち負け以外にも大切なことがあるんじゃないかと思うようになったんです。そんな時に『監督が怒ってはいけない大会』と出会い、今回参加させていただきました」 ――久保さんもスポーツの現場におけるハラスメントは目にしてきましたか? 久保さん「たくさん見てきました。子どもの時に通っていたスイミングスクールでは体罰もありましたし、体が弱い子は退会させられてしまうこともありました。コーチは勝つことばかりを重視していたんですね。そういった中で育ったので、僕の中にも『勝利至上主義』の視点がいつの間にか根付いていました。試合に勝てない選手を見ると、『努力していないからできないんだろ?』と思ってしまってたんです。いま振り返ってみると、負の連鎖ですよね。そういう思考を持つアスリートが指導者になってしまうと、結局は同じように厳しい指導ばかりしてしまう。どこかで断ち切らないといけないんです」 ――「断ち切る」という意味では、この大会に強い意義があるように感じます。 久保さん「そうですね。『怒らない』ことの意味を学んで、勝利至上主義から解放されていく指導者が増えていくといいなと思います」 ――久保さんご自身の目標はありますか? 久保さん「パラ水泳の現場って、保護者がコーチを担うことも多いんです。そうすると、ついつい保護者も厳しくなってしまい、結果的に子どもたちが苦しむことになる。そして、やがては水泳自体が嫌いになってしまうんです。でも、それは悲しいことなので、保護者に向けたアプローチをしていきたいですね。少しでも水泳を好きでいてくれる子どもを増やしていきたいですし、その上で、最終的には共生社会を目指したいと思っています。いまの世の中『共生社会』や『多様性』という言葉がよく使われますよね……。でも、そんな言葉を使わなくても、当たり前にいろんな人たちと一緒に生きていける社会が理想です。ひとりのアスリートとして、水泳を通じてそういった社会の実現を目指していきたいです」
編集後記
スポーツ現場におけるハラスメントや体罰の根絶を目指す「監督が怒ってはいけない大会」。具体的にはどんな活動をしているのかを知るため、実際の大会に参加させていただきました。 そこで目にしたのは、子どもたちが笑顔でスポーツに取り組んでいる姿。それこそが本来のあるべき姿であることを実感しました。同時に、アンガーマネジメントセミナーによって監督やコーチに対して理論的にアプローチしていくことの重要性も痛感しました。「怒ってはいけない」とただ伝えるのではなく、それはなぜ必要なのか、事例や方法も丁寧に伝えることで、スポーツ現場は変わっていくのかもしれないと感じました。
日本財団ジャーナル編集部