2023年の出来事を堤伸輔が振り返る──「大谷翔平」「WBC」「藤井聡太」「YOASOBI」ほか、ライブエンタメ“超・私的”10大ニュース
初めてナマで見たノーヒット・ノーラン試合達成のその場面/9位
9月9日、ZOZOマリンスタジアムでそのシーンを目の当たりにした。オリックス・バファローズの山本由伸投手によるノーヒット・ノーランゲームだ。プロ野球での無安打・無失点の完投は、1936年の沢村栄治に始まる。88年の歴史で山本がちょうど100回目のノー・ノーを達成することとなった(山本自身は2022年に続き2回目)。年によって多い少ないはあるが、平均すれば年に1回あるかないかの場面をこの目で見たのは初めてだ。投球内容も四球を2個出しただけのハイレベルで、回が進むにつれて球場の緊張が高まっていくのを感じていた。 というよりも、私自身の緊張感がさらに凄く、6回を迎えるころには下半身、特に大腿部のあたりの筋肉が痙攣し始めていた。「由伸頑張れ!」と極度に感情移入していたからだと思うが、スポーツ観戦でこれほどの緊張と感情移入を覚えることは滅多にないなと思った。とても心地良い緊張だった。 その山本の、ロサンゼルス・ドジャースへの移籍がクリスマス前に決まった。大谷とともにワールドシリーズ制覇を目指す姿を現地で見ないなんてあり得ない。さっそく試合日程をチェックし始めている。
歌舞伎版『刀剣乱舞』が開いた新境地/10位
歌舞伎の夏の演目は怪談がお馴染みだが、今年7月の新橋演舞場は新作だった。『刀剣乱舞 月乃剣縁桐(とうけんらんぶ つきのつるぎえにしのきりのは)』。PC版ブラウザゲームに始まる「刀剣乱舞」は、ミュージカル、舞台、アニメ、実写映画などさまざまにスピンオフして人気を呼び、「刀剣女子」と呼ばれる女性ファン層まで生み出した。歌舞伎役者の尾上松也がこの題材に着目したのはさすが。そして、歌舞伎版『刀剣乱舞』も見事な出来栄えだった。 近年、『ワンピース』『NARUTO -ナルト-』さらには『風の谷のナウシカ』など、マンガやアニメの名作をベースとした新作歌舞伎が次々と上演され、新しい歌舞伎ファン層の獲得にも貢献してきたと思う。ただ、それぞれの題材が歌舞伎にぴったりだったかと言うと、私見ではそうでもないものもあった。その点、「刀剣乱舞」は、時代設定も刀剣というモチーフも、従来の歌舞伎と共通の土壌の上、もしくは延長線上にあり、何の違和感もなく歌舞伎の舞台に馴染んでいた。歌舞伎らしい外連味(けれんみ)のある演出との相性も抜群で、私は3度足を運んだが、観るたびに引き込まれていった。 座頭たる尾上松也のリーダーシップも伝わってきて、単に舞台上の主役だけではないなと感じた。この新作は、歌舞伎演目として定着させなければ惜しい、惜し過ぎる。権利関係の問題などもあるのかもしれないが、ぜひこれからも上演してほしいものだ。 次は、歌舞伎の“本舞台”と言われる歌舞伎座での上演を観てみたい。その際には、若手と中堅の実力派で固めた今回の配役でいってほしい。 以上、私なりの10大ニュースを挙げてみた。なんとも偏っているなと呆れたかたも多いだろう。その通りです。反論はありません。ここに挙げたほかにも、スポーツだと水泳、体操、フィギュアスケート、ハンドボールなどなど、そしてたまにはクラシックバレエや能・狂言・文楽、現代演劇の舞台、クラシックコンサートにも通ってはいるものの、毎日かつ満遍なくライブエンタメを観ることは不可能なので、その時々の関心と興味の赴くままに偏ってしまうのです。しかも、ライブエンタメは日本だけで展開されているわけでもありません。 そこでご提案。みなさんも、ぜひ2023年の“私的10大ニュース”をリスト化してみてください。この1年のいい記録になりますよ。(12月22日記/文中敬称略)
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