気候変動の国際会議を「踊らせない」ために
10月に生物多様性のCOP16、11月には気候変動のCOP29など、気候変動の対策に向けた会議が立て続けに開かれている。一方、2024年の世界のCO2排出総量は過去最高を更新する勢いだ。成果が見えないのはなぜか。立教大学特任教授の河口真理子氏に寄稿してもらった。 2024年秋は環境関係の国際会議が花盛りだ。今年は10月に隔年開催の生物多様性のCOP16がコロンビアで開催され、気候変動のCOP29が11月にアゼルバイジャンで開催されている。 これらに合わせて、各国政府、世界の産業界、金融当局、投資家などがカーボンニュートラルでネイチャーポジティブな経済社会への転換について議論を戦わせ、多くの合意を取り付け、実行計画を策定・公表している。 産業界と金融界では、気候変動情報を財務情報として扱うTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)による情報開示とその評価も上場企業にとっては当たり前になりつつある。英国はこの脱炭素にむけた動きを加速するためか、11月13日COP29の席上、「2035年までに温室効果ガスの81%削減」という野心的な目標を公表した。 40年以上環境問題に取り組んできた立場からすると、日本国内でも気候変動問題を重要な課題という認識はここ数年で急速に高まっている。環境省だけでなく内閣府、金融庁、国土交通省、経済産業省などで、気候変動やサステナビリティに関する委員会が多く設置が設置され、政策レベルでの議論が進んでいるかのように見える。 このように書いてみると、世界の気候変動対策は順調に進展し、着実にCO2排出量は減少しているかのように思う方もいるかもしれない。しかしながら、2024年の世界のCO2排出総量は、減るどころか過去最高を更新する勢いなのである。 英国エクスター大学などが参加するグローバル・カーボン・プロジェクト(Global Carbon Project) は11月13日に、2024年のCO2排出総量は前年から10億トン増えて416億トンとなる見込みであると発表した。急速に発展したグローバル経済の結果がこれなのだ。 当然、地球の気温も上昇している。コペルニクス気候変動サービスによると、2024年の世界の平均気温は上昇を続けており、パリ協定の目標値1.5℃以内の上昇幅は破られつつある。国連環境計画(UNEP)の「排出ギャップ報告書2024」では、「現行の政策のままなら、世界の平均気温は今世紀中に最大3.1度上昇する可能性がある」と示唆している。 人間社会で行っていることと、地球環境が示す症状との間には大きなギャップがあり、それが広がりつつある。この状態をみるにつけ、「会議は踊る」という有名なフレーズが浮かんでくる。 19世紀フランス革命とナポレオン戦争終結後の欧州秩序の再建と領土分割を合意する目的で開催されたウイーン会議。ここで、各国の利害が対立し合意に至らず毎晩舞踏会が開かれていたことを皮肉った言葉だ。これは、多くのサステナビリティ関連の会議が開かれ政策を検討する委員会が乱立し、サステナブル業界が盛り上がっているように見えることと重なる。 こうした会議の議論に参加し、対策の計画を策定し、それらの情報開示をすれば、直ちにCO2が減るような錯覚を抱きがちだ。CO2は実効性のある対策を即座に実施し、その効果が出てやっと減少に転じる。 私たちには会議で踊っている時間の猶予はない。今後、なぜ会議が踊っているのか、CO2削減のみならず、他の環境課題もどのように取り組むべきなのか、考えていきたい。 ■河口真理子(かわぐち・まりこ) 立教大学特任教授、不二製油グループ ESG アドバイザー、三菱化工機社外取締役。一橋大学大学院修士課程修了(環境経済専攻)。2020 年 3 月まで大和総研にて、サステナビリティの諸課題について、企業の立場(CSR)、投資家の立場(ESG投資)、生活者の立場(エシカル消費)の分野で 20 年以上調査研究、提言活動を行ってきた。現職では、サステナビリティ学についての教育と、エシカル消費、食品会社のエシカル経営にかかわる。