F1テスト走行で見えてきたレッドブル・ホンダとトロロッソ・ホンダ“2つのホンダ”の現在地
この結果を見ると、ホンダPUを搭載するチームのうち、トロロッソの2台は2位と3位と好調だ。ダニール・クビアトの1分17秒704は1回目のテストの3日目のトップタイムでもある。昨年の8日間のテストでのトロロッソのベストタイムは2回目の3日目にピエール・ガスリーが記録した1分18秒363だった。つまり、トロロッソは昨年よりすでにコンマ6秒速くなっている。もちろん、ライバル勢も昨年よりタイムを向上させているチームが少なくないだけに、まだ安心はできないが、滑り出しとしては順調と見ていいだろう。 次にレッドブルだ。ベストタイムの成績では今年レッドブルに移籍したピエール・ガスリーが15位で、マックス・フェルスタッペンは16位と沈んでいるように見える。 しかし、このタイムはマシン性能の絶対値を表したものではない。表2のタイムの後に記されているC2~C5という表記は、そのタイムを記録したときに履いていたタイヤのコンパウンド(ゴム)の硬さを示す。この中ではC2が最も硬く、C5が最も軟らかい。昨年の基準で例えるなら、C2=ミディアム、C3=ソフト、C4=ウルトラソフト、C5=ハイパーソフトとなる。 ピレリのマリオ・イゾラ(ヘッド・オブ・カーレーシング)によれば、「C3はC2より0.7秒速く、C4はC3より0.6秒速く、C5はC4より0.6秒速い」という。 さらにこの数字には搭載された燃料量が反映されていないため、マシンの正確なパフォーマンスは評価できない。 燃料搭載量を無視して、強引に現時点でのパフォーマンスを比較すると最も速いと考えられるのはC3タイヤで1分18秒046(シャルル・ルクレール)を記録したフェラーリだ。C3とC5のタイヤのタイム差を考慮するとフェラーリのマシンには1分16秒8以上のタイムをたたき出す力があり、もちろんそれはトップタイムとなるからだ。 5連覇中のメルセデスはフェラーリよりコンマ5秒ほど遅く、レッドブルはメルセデスよりさらにコンマ2秒遅いという計算となる。 ただし、レッドブルのレースエンジニアリング部門を統括するギヨーム・ロケリンは、1回目のテストを終えて「テストは大成功!! 望んでいた以上の出来だ」と喜んでいる。これは、レッドブルが1回目のテストではデータ収集を主な目的としていて、速さを追求していなかったからだと考えられる。 今年はフロントウイングなど、空力に関するレギュレーションが変更された。そのため、今回の新車でのテストは速く走ることよりも、変更されたフロントウイングによって、空気の流れがどのように変わったのかを知る必要がある。特にレッドブルは昨年までと空力に関するコンセプトを変えたため、トロロッソよりも入念にデータを収集する必要があったと考えられる。 また今年はタイヤも変わった。コンパウンドの数が減っただけでなく、ワーキングレンジと呼ばれる、タイヤの温まり方が昨年とは異なっている。タイヤの性能を発揮するにはどれくらい温めればいいのか。またそれぞれのコンパウンドはどれくらい持つのか。こうしたデータは開幕してからでは遅く、シーズン前のこのテストでデータを収集しなければならない。 つまり、レッドブルは1回目のテストで車体やタイヤの基本性能を確認し、クルマの性能を最大限発揮するためのデータ取りを行なっていた。 1回目のテストを終えたチームは、ファクトリーに戻ってデータを分析し、今後のセットアップの方向性を確認しているものと考えられる。 フェラーリとのコンマ7秒差を、レッドブルはどこまで縮めてくるのか。そして、激しい中団グループの中で、トロロッソのポジションはどこになるのか。その答えは、2月26日から同じくスペインのカタロニア・サーキットで始まった最後のテストで見えてくる。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)