『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』巨匠リドリー・スコットによる真正面からの“再創造” ※注!ネタバレ含みます
シニシズムからエモーショナルへ
そしてキャラクター造形も、前作でラッセル・クロウが演じた剣闘士マキシマスは、ポール・メスカル扮する主人公ルシアスがその役割を受け継ぎ、対立するローマ皇帝コモドゥス(ホアキン・フェニックス)は露悪的にデフォルメされ、双子の皇帝カラカラ(フレッド・ヘッキンジャー)とゲタ(ジョセフ・クイン)へと分離。さらには剣闘士団を率いるプロキシモ(オリヴァー・リード)の役割は、ルシアスに瞠目する武器商人マクリヌス(デンゼル・ワシントン)へと置換され、物語を大きく攪拌する。こうして前作のキャラクターを換骨奪胎させ、本作は2024年の最新版『グラディエーター』を展開するのである。 ただ前作と大きく異なるのは、マキシマスが周囲に平和国家への思いを託し、静かに息を引き取っていく自己犠牲で幕を閉じたのに対し、今回はルシアスが生き抜いて理想を成し遂げるという、結末の対照性だ。これは今作でもって『グラディエーター』を真のエンドとする采配でもあり、世界はこうあるべきなのでは? という監督の祈念をそこに感じ取ることができる。商業長編デビュー作『デュエリスト/決闘者』(77)から一貫して、相容れることのない者との対立や、対立の果てに禍根を残す展開を描いてきた巨匠の、そんなシニシズムとは異なる(前作以上の)エモーショナルな姿勢が、今回の『グラディエーターII』では強く正面に出ているのだ。 またルシアスをローマ侵攻の犠牲者とすることで、彼をただの英雄ではなく、帝政ローマの統治に疑問を生じさせる存在として、映画は絶対的な正義などあり得ないことを我々に提起してくる。そういう意味で『グラディエーターII』は、続編の構えを崩さないながらも前作を再考させ、現代が課題とする政治的なメッセージを我々にキャッチさせる。 こうして『グラディエーターII』はリドリー・スコットの過去作品に対して忠誠を示すが、同時に『2001年宇宙の旅』(68)『シャイニング』(80)で知られる偉大なる先人、スタンリー・キューブリックへの忠誠をあらわにしている。