「モネ 睡蓮のとき」(国立西洋美術館)レポート。日本初公開作を含む代表作でモネ晩年の制作の核心に迫る
「モネ 睡蓮のとき」(国立西洋美術館)開幕レポート
1874年にパリで開かれた「第1回印象派展」から150年となる今年。国立西洋美術館でフランスの印象派を代表する画家、クロード・モネの展覧会「モネ 睡蓮のとき」が開催される。会期は10月5日から2025年2月11日まで。 日本でも広く親しまれている〈積みわら〉や〈睡蓮〉の連作を手がけているモネだが、本展はとくに画家の晩年の制作と表現の変化に焦点を当てている。世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館より、日本初公開作品を含む、厳選されたおよそ50点が来日。日本国内に所蔵される作品も加え、計64点の名画が集結している。
セーヌ河の水面に浮かび上がる晩年の表現
1883年からノルマンディー地方の小村ジヴェルニーに住み始めたモネが50歳になった1890年にその土地と家を買い取り、最後のアトリエ兼自宅とする。のちに代名詞ともなるジヴェルニーの庭だが、モネが居住地を移してすぐ〈睡蓮〉の柔らかい色使いとあたたかい光の表現に辿り着いたわけではない。1890年代後半の主要なモティーフはモネが訪れていたロンドンやセーヌ河の風景であった。とりわけ、第1章のフォーカスは〈睡蓮〉以前の水辺の風景と描写である。 注目の作品のひとつは冒頭にある《舟遊び》(1887)だ。モデルになっているのはモネの再婚の相手となるアリス・オシュデの連れ子シュザンヌとブランシュ。絵画の大半を占めている水面が巨大な「鏡」のように季節や天候を映し出し、光り輝く水面や逆さに映り込む風景の描写がのちの〈睡蓮〉を予見させる作品だ。
水と反映の風景に取り憑かれて
第2章はジヴェルニーの庭で咲いていた爽やかな花やモネの装飾画に焦点を当てている。モネが1870年代の印象派時代に本格的な装飾画を描き始めた。やがて、1890年代を通じて連作の展示効果を追求するなかで、睡蓮というひとつの主題のみからなる装飾画の構想に心奪われることになる。 《睡蓮、夕暮れの効果》(1897)はモネが始めて描いた〈睡蓮〉と推定されている作品のひとつだ。本作は、晩年の〈睡蓮〉と対照的に、水面の光や夕陽の色彩よりも白い花そのものにクローズアップしている。 本展の見どころは、なんといっても大作の多さだ。2章の展示室でとくに大きな存在感を発揮するのはオテル・ビロン(ビロン邸)で展示される予定だった3点の装飾画。1920年に睡蓮の装飾パネルの寄贈を決めていたモネだが、会場の財政上の問題からこの企画は叶わなかった。最終的に寄贈されなかった作品がオランジュリーの大装飾画へと引き継がれたが、《アガパンサス》(1914~17)だけが放棄されることになる。まさにモネの幻の花とも言えるだろう。