自閉症のオーウェンはどうやって言葉を取り戻し、映画に主演できたのか?
オバマケアを排除した新政権への不安
──米国では自閉症などの方々への福祉は充実しているのですか? 全然足りていません。オバマケアで福祉が充実する方向にありました。しかし、トランプ大統領になって、これから支援がどんどん削られていくのが目に見えています。人口の1/4のニューロダイバースの方が生まれてきているのにもかかわらず。 オーウェンのお母様のコーネリアさんは、そのような状況に危機感を抱いています。とくに貧困層の方は施策がなければ自分たちでどうすることもできない、待っているのは悲劇だけなのです。福祉サービスやそういう方たちへの理解もよりよいものへと向かっていったはずなのに。それはオバマ氏のミッションでもあったのですが。残念ながら、サービスは削られていき、さらに公衆の面前で障害者をからかうような、いじめというものを問題視しない、ひどい大統領になってしまったんです。
いま、映画業界ができること
──そのような状況下で映画業界ができることは何でしょう? 映画業界というのはおそらく真実を皆様にお届けする数少なく残されたエリアじゃないかと思われます。とくにドキュメンタリーに関しては、不正を暴いたり、僕の個人的な意見ですけれども、トランプ大統領になってからどんなことになっているのかメディアが描き切れていないギャップを埋められたりできるのではないかと思います。 その中でハリウッドというのは二つのことができる。そのうちの一つがメリル・ストリープの有名なゴールデン・グローブのスピーチであったり、オスカーでのさまざまな方のスピーチのような場面で意見を発信していくことができます。 一方、米国で今、起きている事実に直面していたくないから、しばし映画館で逃避しようという方も増えているんですよね。そういう役割も映画にはあると思います。60年代のベトナム戦争批判以来の規模の波が今、映画業界の中で起きていて、それはすごいパワーを秘めています。映画作家としての僕たちの義務は何が起きているのかをとらえて伝えていくことではないかと思います。 (インタビュー実施:2017年3月6日) ■ロジャー・ロス・ウィリアムズ 1973年9月16日生まれ。映画製作に携わる以前は、TVジャーナリストおよびプロデューサーとして15年以上にわたり評価されてきた。初めて監督・製作した『Music by Prudence』(2010)でアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞をアフリカ系アメリカ人として初の受賞。その後、長編ドキュメンタリー映画『GOD LOVES UGANDA』(13)、『Blackface』(15)を発表。
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