9月3日は「秋の睡眠の日」小林弘幸教授「ストレス社会の現代は眠る直前まで交感神経優位」
9月3日は、睡眠や健康への意識を高めるための「秋の睡眠の日」。普段は何気なく取っている睡眠だが、ぐっすりと良質な睡眠を取るために必要なこととは? 自律神経研究の第一人者で順天堂大学医学部の小林弘幸教授に聞いた。 【写真】今秋、睡眠美容事業に参入するというプロラボホールディングス社
世界的に見ても眠れない日本人
そもそも睡眠にはどのような意義があるのだろうか。 小林弘幸(以下、小林)「基本的には日中に活動した脳や体を休めるレスト(休養)とリカバリー(回復)ですね。ヒトの体にはおよそ37兆個の細胞があるのですが、睡眠を取ることによってそれらが活性化します。睡眠中は、自律神経の中でリラックスする副交感神経が優位になり、朝になると活動的になる交感神経が優位になります。このバランスが崩れると睡眠の質が低下し、睡眠障害の原因にもなります」 経済協力開発機構(OECD)の2021年の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で33カ国中最下位。現代人の睡眠時間はなぜ短くなってしまったのか。 小林「一般的には成人は6~8時間が適正な睡眠時間だと言われています。ただし、適正な睡眠時間には個人差があって、僕なんかはショートスリーパー(短時間睡眠者)の遺伝子を持っているので、あまり長く眠ると体の調子が悪くなってしまうのです。このように差異はあるものの、最低限4~5時間以上の睡眠時間は必要だと思いますね。 睡眠時間が短くなっている要因のひとつは西洋的な文化です。さらに携帯電話やスマートフォンが普及し、SNSなどから常に情報が入ってくる状態で、そこに費やす時間が増えてきたことも大きいと思います。昔はテレビは深夜になると放送が終了し、ケータイやスマホなどがない時代に情報を得るものは本や新聞しかありませんでした。今はインターネットでいつでも情報が見られますから、結果的に睡眠時間が短くなっているのでしょう」
健康の原点は運動・食事・睡眠
良質な睡眠は心と体、美容にどのような影響を及ぼすのか。 小林「良質な睡眠が取れると、自律神経やホルモンのバランスが安定してくるので、全身の血流や血液の質が良くなります。血流や血液の質が上がれば当然心や体、美容にも良い影響を及ぼしますよね。一例を挙げると、腸内環境が整うので幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンやセロトニンを分泌する神経細胞が活性化します。全身は血流でコントロールされているので、肌の再生や修復、髪の成長も早くなります。反対に不眠が続くと脳梗塞や心筋梗塞、免疫力が低下するのでがんや感染症のリスクも高まります。 健康の原点は、細胞の一つひとつにどれだけ質のいい血液を流すことができるか。そのためには運動・食事・睡眠が三種の神器です。これらがどんな役割を果たしているのかというと、自律神経を整えて血流をコントロールしています。運動・食事・睡眠はつながっていて、良質な睡眠を取るには運動とバランスの取れた食事も重要です」 睡眠の質を良くするために心がけておきたいポイントは? 小林「朝食をしっかり食べる、就寝の3時間前には食事を済ませる、1時間前にはケータイやスマホを見ない、入浴するなど生活のリズムを整えることが大切です。食事したりブルーライトを浴びたりすると、交感神経が優位になるので入眠が難しくなります。深部体温が下がると眠りに入りやすいので、入浴して深部体温を上げておくのもおすすめです。ストレス社会の現代は、眠る直前まで交感神経が優位なので音楽を聞く、アロマを使うなどリラックスして副交感神経を優位にするといいでしょう」