<検証>トランプの公約達成力 第二次政権へ立ちはだかる様々な壁、「米国第一主義」は真の国益といえるのか
米国版〝トラス・ショック〟の懸念
「大型減税」の公約も、一筋縄ではいきそうもない。 いわゆる「トランプ減税」といわれるもので、(1)39.6%から37%に期間限定で引き下げた所得税を恒久化する(2)35%から21%に引き下げた法人税率を15%に引き下げる(3)レストラン従業員などのチップ収入や残業代を非課税とする、などからなっている。 個人、法人ともに減税自体は歓迎だが、問題は、政権1期目と同様に、大幅な税収減により、財政赤字がこれまで以上に深刻化することだ。 国の借金が膨らめば膨らむほど、信用低下を招き、最悪の場合、22年に英国のトラス首相(当時)が財源の裏付けのないまま大幅減税に踏み切った結果、国債、株式、ポンドの「トリプル安」に至った時と同様の事態に陥らないとも限らない。金融不安は企業収入を減らし、結果的に労働者の所得減収にもつながる。
孤立主義はアメリカの国益になるのか
外交課題の「公約」で最大関心事は、ウクライナ戦争であることに変わりない。 この点について、トランプ氏は先の選挙戦を通じ、「大統領就任1日目に終わらせる」「ロシアのプーチン、ウクライナのゼレンスキーとひざ詰めで話し合い、すぐに停戦させる」などと公言してきた。 しかし、去る15日、当選後、初の記者会見に臨んだトランプ氏は、即時停戦の見通しについての質問を受け、「複雑な要素がからんでいるため、中東情勢の解決と比べても、より困難だろう」との率直な見解を初めて明らかにした。 この発言は、トランプ氏が政権引き継ぎのための世界情勢に関する最新のブリーフィングをバイデン政権側から受け始めるにつれて、ウクライナ情勢の早期解決にはまだ多くの障害が立ちはだかっていることを認識し始めたことを示唆している。 さらにウクライナ問題に関し、トランプ氏が当初から念頭に置いていた「解決案」は、これまでの戦いでロシアが占拠したウクライナ領内の地域をそのままロシア側に割譲することを前提にしていたといわれる。 もしこれが実際に「即時停戦」のための、解決案だとすれば、戦争当事者のウクライナはもちろん、NATO諸国の反発は必至であり、米欧関係がこれまで以上に動揺をきたすことにもなりかねない。 もともと「アメリカ・ファースト」をスローガンに掲げてきたトランプ氏は、ウクライナ戦争への西側の介入に当初から消極的姿勢をとってきた。そして、米国からの莫大な軍事援助に対して「米国納税者の負担にも限度がある」とのコメントさえ厭わなかった。 しかし、性急で狭隘なこうした孤立主義的主張が、中長期的に見て米国にとっての真の意味での国益になるかどうかは別問題だ。 この点に関し、これまで上院共和党院内総務を務めてきたミッチ・マコーネル議員は、有力外交評論誌「Foreign Affairs」最新号論文の中で、トランプ次期大統領への「注文」として「孤立主義との決別」を呼びかけるとともに、次のように述べている: 「ウクライナ戦争でのロシアの勝利は、欧州における米国の利益を著しく損傷させ、中国、イラン、北朝鮮が惹起する脅威を一段と複雑化させることを意味している。トランプは今後、中国に立ち向かうためには、ウクライナに見切りをつけるべきだとする共和党内の近視眼的な助言を拒絶すべきである。さらに、同盟諸国との関係の重要性を米国の繁栄と切り離そうとする“新孤立主義”にも耳を貸してはならない。なぜなら、欧州諸国は最近、中国とロシアが接近し、関係を強めるにつれて、対処すべきライバルとしての中国の拡大脅威に直面しているからだ」 果たしてトランプ次期大統領は、難題山積の内外情勢を前に、「アメリカ・ファースト」に依拠した「公約」をどこまで実行できるのか、また、できたとしても、国益と合致したものになるのかも含め、厳しく真価を問われることになる。
斎藤 彰
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