【パキスタン代表監督奮闘記(3)】「クリケット野球」で世界に挑む
番号が裏返ったままのユニホームを着て練習するパキスタン代表
9月20日、パキスタン代表は目標としていた中国代表に敗れ、台湾で行われたアジア選手権の幕を閉じた。1勝4敗でアジア5位に終わったパキスタン代表だが、インドネシアを倒したことで来年のWBC予選への出場資格を得た。この国で野球が始まって23年、パキスタン長年の夢である世界大会への出場が決まり、代表関係者はお祝いムードだった。まだまだ可能性を秘めたままに幕を閉じたパキスタン野球の挑戦。そんな5日間の軌跡を記していく。
中国を猛追する「野球後進国」
はじめに、アジア野球選手権における各国の位置について説明したい。まず、アジアで圧倒的な力を誇る日本、韓国、台湾は各国プロ野球シーズン中のため社会人やプロの若手選手で組まれており、トップチームではない。それでも、この3カ国の1、2、3フィニッシュは今回も変わりはなかった。この3カ国の力は、いまだにアジアでは圧倒的である。 そしてその下に位置するのが、不動の4位中国。この中国のポジションが変わるとき、アジア野球の歴史が動くだろう。長年4位に付ける中国は、3位以上と力の差があり追いつけるように思えないが、5位以下のチームとも力の差がある不思議な構図にある。しかし近年、その5位以下に位置するパキスタン、フィリピンなどの野球後進国が猛追し、アジア野球界を盛り上げている。
代表は全員クリケット経験者
全員がクリケット経験者で構成されているパキスタン代表。打つ、投げると言う野球特有の動作における能力の高さの秘密は、このクリケットだと言われている。彼らが持つ能力は、どんなに優秀な指導者でも与えることはできない二物であり、まさに私が惚れ込んだ「クリケット野球」である。また、いかなる環境でもアグレッシブに攻める姿勢は、野球先進国に挑戦する上で必ず武器になると踏んでいた。世界を相手に「クリケット野球」がどこまで通用するか、お楽しみいただきたい。 しかしながら、一筋縄ではいかないのが野球後進国の宿命である。何事も予定通りには進まなかった。大会規定の登録選手は18名であるが、パキスタン代表チームは野手10人、投手5人の15名で格上相手に5連戦することになった。来るはずだった団長と投手は台湾への渡航の日、空港に現れなかった。団長、ベテラン投手の不在、そして登録名簿に名前のない人間がアジア野球連盟への報告もなく帯同しているなど、チームを取り巻く状況は厳しいスタートとなった。チーム責任者が不在のため、急遽、以上の問題に私が対応しなければいけなくなった。