『その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか』 ドイツ文学史上最も強烈な個性
内容を知らなくても、タイトルだけで十分に強烈だ。39歳で非業の死を遂げた作家、アグラヤ・ヴェテラニーが唯一遺した自伝的小説、『その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか』(河出書房新社、税込み2750円)が9月27日に発売される。 祖国ルーマニアの圧政を逃れ、サーカス団で転々としながら放浪生活を送る一家の末娘が主人公。ピエロの父親にたたかれながら、曲芸師の母親が演技中に転落死してしまうのではないかといつも心配している。そんな時に姉が話してくれたのが、「おかゆのなかで煮えている子ども」の寓話(ぐうわ)だった。 著者は1962年ブカレストでサーカス家庭に生まれ、67年に亡命、77年にスイスのチューリヒに定住するまで、サーカス興行のために各地をめぐる生活を送った。放浪生活で15歳まで読み書きのできなかった著者は、チューリヒ定住後にドイツ語を習得し、俳優として活躍するかたわら新聞、雑誌に多数の記事を寄稿。1999年に発表されたこの作品は、「ドイツ文学史上最も強烈な個性」と評され、シャミッソー賞奨励賞、ベルリン芸術賞奨励賞を受賞、世界16カ国で翻訳されるなど大きな反響を呼んだ。2001年ころから精神状態が不安定になり、2002年2月にチューリヒ湖に入水して自ら命を絶った。