横浜FMの斎藤はザックJのジョーカーになれるか?
切り裂くドリブル
右のタッチライン際に張り付いていた背番号11が、両手を大きく広げながらパスを要求する。両チームともに無得点で迎えた前半31分。ハーフウェイライン付近で右サイドバックの小林祐三がルーズボールを拾った瞬間、横浜F・マリノスのMF齋藤学はゴールの匂いを感じ取っていた。 ボールを受け、得意のドリブルで中央へ切れ込んだ直後だった。ゴールへ向けてドリブルの軌道をほぼ直角に変え、マークについた柏レイソルの左サイドバックの橋本和を置き去りにした。 ペナルティーエリア内へ侵入していく齋藤を、必死に追走する橋本。何とか 距離を詰め、体をぶつけて止めようとしたその時だった。齋藤もあえて橋本に体をぶつけ、その反動を生かしてゴールライン際まで一気に歩を進めたのだ。 マイナスに折り返されたクロスに飛び込んできたのはFWマルキーニョス。右足によるジャンピングボレーはバーを叩いたが、跳ね返ってきたボールを冷静に右足でゴールに流し込んだ。マルキーニョスに笑顔で抱きしめられた齋藤が振り返る。 「上手く自分の間合いで、相手と中の味方の人数を見ながらしっかりとドリブルで運ぶことができた。いいゴールが決まってよかった」 橋本に体をぶつける直前に無理な体勢からクロスを上げたとしても、ゴール前の人数はそろっていなかった。一瞬の状況を的確に見極めた齋藤の判断力が、エースの今シーズン11点目を導いた。 Jリーグの再開初戦で、和製メッシ、斎藤は、その存在感を見せた。 先の東アジアカップで日本代表に初めて招集され、オーストラリア代表との第2戦で初ゴールを決めた。左サイドでタテパスを受けてからドリブルで中央へ切れ込み、細かいステップで相手を翻弄しながらシュートコースを見極め、スピードに乗った状態から右足でループ弾を放つ「離れ業」だった。 3戦全敗に終わった6月のコンフェデレーションズカップに臨んだメンバーには、ドリブラーは乾貴士(フランクフルト)しかいなかった。流れを変えられる「ジョーカー」が熱望される中で、齋藤は所属クラブと日本代表の両方で着実に結果を残しつつある。 ドリブル突破だけでなく、仕掛けてからのパスやシュート。前が詰まったら急停止して、もう一回やり直す柔軟な判断力。元日本代表MFで現在は解説者を務める水沼貴史氏は、プレーの幅を広げている齋藤を「十分に日本代表のジョーカーになりえる」と評価しつつ、今後の課題を挙げた。 「アシストしたシーンのように、自分の間合いでボールを受ける時はいいんだけど、そうじゃない時にどうしたらいいのか。周囲にお膳立てされなきゃいけないようではダメ。自分でいい間合いを作れるようになれば、もっとよくなる」