「就活セクハラ」ついに法改正へ、“セクハラのブルーオーシャン”にメス
課題1.セクハラが「禁止」されていない
一方で、課題も多く残されている。 そもそもセクハラについては、対象が労働者か就活生かによらず、企業に課されているのは防止や相談に応じるなどの措置義務にとどまっている。セクハラそのものを禁止する規定がないことが問題だと内藤さんは指摘する。 「セクハラを禁止していない国は、先進国では非常に珍しい。今回の法改正の審議では、セクハラを禁止することについての議論がほとんど出ず、本当に残念でした。 セクハラを禁止する規定や定義がないということは、均等法では裁判で直接損害賠償請求できないなど、被害者を救済する規定もないということ。そこに目を向けて欲しいです」(内藤さん) 事業主が措置義務を守らなければ、都道府県の労働局から行政指導が行われ、指導や勧告に従わない場合には企業名が公表されうる。しかし、そもそも労働局が事業主に指導できるのは措置義務違反、つまりセクハラについての事業者側の対応のみで、禁止規定や定義がないため、起きた行為がセクハラかどうかの法的判断には関与できず、(行為者に)謝罪や反省を求める被害者のニーズを満たしていないことも多い。
課題2.就活パワハラ、SOGIハラは法のはざまに
加えて、就活生へのセクハラが措置義務の対象になった一方で、就活生へのパワーハラスメントが除外されたことも大きな課題だ。 就活生へのパワハラについて、現状では「どこまでが相当な行為であるかという点についての社会的な共通認識が、必ずしも十分に形成されていない」というのが理由だった。 パワハラは(1)優越的な関係を背景とした言動で(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより(3)労働者の就業環境が害されるものという3要素を満たすものと定義されている。 今回の法改正の方針を審議した労政審では、「就活におけるパワハラは上記の3要素では捉えきれない面がある」という意見や、「面接官に厳しい口調で多数の質問をされ泣いてしまったが、入社してみると面接官はとても良い上司だった。ワイルドな取引先もあり、考えられない理不尽な思いをすることもあるため、耐性をテストされたのではないか」という学生の体験談をもとに、「パワハラ面接という言葉があるが、そう呼ばれているものが本当にパワハラと呼ぶにふさわしいのか、線引きは難しい」という意見もあった。 内藤さんが懸念するのは、前回の改正で労働者へのパワハラの1つとして「性的指向や性自認に関する差別的な言動『SOGIハラスメント』」の防止などの措置義務が企業に課されていたが、就活パワハラが抜け落ちたことで、就活生らへのSOGIハラも措置義務の対象外になったことだ。 就活時にSOGIハラを受けたというLGBTQ +当事者は多く、当事者団体らが改善を訴えてきた。 「ハラスメントをセクハラ、マタハラ、ケアハラ、パワハラなどに細分化して規制した結果、こうしてこぼれ落ちるケースが出てきました。ハラスメントを細分化して、バラバラの法で規制することの限界が見えてきたのではないでしょうか。 あらゆるハラスメントの根絶を目指す、包括的な立法についても検討を始めるべきだと思います」(内藤さん)
竹下 郁子