【分析】 ロシア、シリア基地で軍装備の移動進める 衛星画像で明らかに
ニック・アードリー、ジョシュア・チータム、ポール・ブラウン、BBCヴェリファイ ロシアがシリア国内の駐留基地で、大量の軍装備を移動している。複数のアナリストは、ロシアが部分撤退の準備を進めていることを示しているとみている。 複数の衛星画像では、ロシアの支配下にあるシリア西部の港と空軍基地に、軍用車両が集まっていることが確認できる。 輸送機もここ数日、シリアを離発着しているとみられる。 これらの基地に向かって北上するロシア軍のトラックの長い車列をとらえた動画も浮上している。BBCヴェリファイ(検証チーム)は、それらの動画が撮影された場所を特定している。 米ワシントンが拠点のシンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、こうした動きについて、ロシア部隊の縮小あるいは完全撤退への準備を示唆していると指摘している。 ロシア政府がシリア暫定政権と交渉する中での、軍用車両の移動は、予防的措置の可能性があると、ISWは付け加えた。 ■ロシアの軍事プレゼンス ロシアは、バシャール・アル・アサド前大統領が統治するシリアで、重要な軍事プレゼンスを示してきた。アサド氏が平和的な民主派デモを武力で鎮圧したことで、2011年に内戦が始まってからも、アサド政権の存続に貢献した。 シリア国内で最も重要な基地は、1970年代に旧ソ連によって設立され、2012年にロシアが拡張・近代化したタルトゥースの港と、2015年から運用されているフメイミムの空軍基地だ。この空軍基地は、アサド政権を支援するための、シリア各地への空爆の際に使用された。 いずれの場所も、中東や北アフリカ、地中海へのアクセスを容易にする、ロシアにとって重要な戦略拠点だ。 しかし、シリアの反政府勢力の進攻を受けてアサド政権が崩壊すると、同国でのロシアのプレゼンスが今後どうなるのか、不透明になった。ロシア政府はシリア暫定政権との交渉を模索している。 クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ぺスコフ報道官は16日、「最終的な決定には至っていない」とし、ロシアは「現在(シリア)情勢を支配している勢力の代表者たちと接触している」と述べた。 ■大型輸送機や数十台の車両 BBCヴェリファイは、米衛星運用会社プラネット・ラブスの衛星画像を使い、フメイミム空軍基地の活動を継続的に確認している。このところ、複数の大型軍用輸送機を使った活動が続いている様子がうかがえる。13日には、大型輸送機アントノフ「An-124」2機が同基地に駐機しているのを確認した。これらの機体は軍の資産の移送に使用された可能性がある。アントノフは17日までに離陸したが、18日朝には大型機2機が同基地に到着した。 15日に米マクサー・テクノロジーズが撮影したフメイミム空軍基地の画像では、避難に使用される可能性のあるロシア製軍用輸送機イリューシン「IL-76」の近くに、数十台の軍用車両があるのがわかる。 BBCヴェリファイは、航空機の位置をリアルタイムで表示する追跡サイト「フライトレーダー24」を使い、17日からのロシアの「An-124」の動きを追跡した。公開されている情報によると、同機はロシア領空をシリア方面に飛行していたが、フメイミム空軍基地の西方のシリア沿岸で、「フライトレーダー24」上から姿が消えた。同機の公開トラッカーがオフになったためとみられる。それから6時間後、北の方角へ戻ったことを確認した。 ■「シリア撤退の初期段階」 英マッケンジー・インテリジェンスのインテリジェンス・マネジャー、デイヴィッド・ヒースコート氏は、アサド政権が急速に崩壊したため、それ以前にロシアが資源を別の場所へ移動させる計画を立てていた可能性は低いと指摘した。 また、フメイミム空軍基地での活動は「異例」のものだとし、ロシアが同基地に一部の資源を保管し、シリアから一部の装備や人員を撤退させる準備をしていることを示唆していると述べた。 トルコの元海軍将校で、国防アナリストのテイフン・オズベルク氏は、衛星画像が「ロシアのシリア撤退の初期段階」を示唆しているとの見方に同調。「空軍基地からの撤退を明らかに示している」と述べた。 「IL-76があること、タルトゥースにロシア艦船の姿がないこと、車両や装備に関する組織的な事前準備が進められていることから、この結論に至った」と、オズベルク氏は述べた。 BBCヴェリファイは先週、複数のロシア軍艦がタルトゥースの港を離れたと報じた。アナリストたちは、これらの船が当面の間、国際水域にとどまるとの見方を示していた。 港を離れた船は今のところ、戻ってきてはいない。ただ、ここ数日の間に、100台以上の軍用車両が基地に到着していることが、複数の衛星画像で確認できる。 前出のヒースコート氏は、これらの車両が避難準備のためのものである可能性が高いとしつつ、車両積載用スロープやクレーンが見あたらないことから、直ちに避難するわけではなさそうだと述べた。 また、最近撮影された動画では、ロシアの長い車列が確認されている。シリア国内のほかの前哨基地から移動してきたものとみられる。 BBCヴェリファイは、この動画が主要高速道路で撮影されたと確認した。これにより、車列がロシア軍基地に向けて北上していることがうかがえる。 ソーシャルメディアに投稿された80秒の動画には、ホムスの南30キロメートルの地点を移動するロシアの長い車列が映っている。別の動画には、ダマスカス郊外から70キロメートルの地点を走行するロシアの車列が映っている。 米ワシントンを拠点とするシンクタンク「中東研究所」のシリア・プログラムの在外研究員、アントン・マルダソフ氏は、「ロシアは現在、ダマスカス陥落以前に(シリア)国内の100近い拠点に配備されていた部隊や軍装備を撤収させている」と述べた。 追加取材:ネッド・デイヴィス (英語記事 Russia moving equipment at Syrian bases, satellite images show)
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