増える鑑定留置、狙いは? 精神鑑定担う医師の「質と数」確保が課題
兵庫県加古川市で2007年、小学2年の女児(当時7)が殺害された事件で、神戸地検は11日、殺人容疑で逮捕された勝田州彦容疑者(45)の当時の精神状態を調べるため、鑑定留置を始めた。来年3月14日まで。刑事責任能力の有無や程度を確認し、起訴するかどうか判断する。 【写真】あの日、殺人と直面した街はいま 06年に同県たつの市で小4の女児(当時9)を刺したとする殺人未遂容疑もあわせて鑑定する。 鑑定留置では、医師が容疑者の精神疾患や障害の有無、それらと事件との関連を調べる。 国立精神・神経医療研究センターの平林直次・司法精神診療部長によると、鑑定医は一般的に、鑑定の前に捜査資料に目を通し、容疑者の生い立ちや供述、事件の詳細などを把握する。資料は段ボール数箱分に及ぶこともある。 精神科医としての通常業務もしながら数カ月にわたって容疑者と面接し、当時の精神状態を見極めるという。 正確な鑑定のため、家族や友人、担任をしていた学校の先生などに話を聞くこともあるという。 鑑定書には精神疾患が与えた影響や、事件当時の善悪を認識する能力などの程度が記され、事件によっては100ページを超える。 鑑定留置の件数は増加傾向にある。きっかけは09年に始まった裁判員制度だ。最高裁によると、起訴前の鑑定留置は昨年589件で、08年(242件)の約2.4倍になった。 裁判では被告の刑事責任能力が争点になる場合がある。地検幹部は「裁判員に分かりやすく説明するため、(事前に)医学的立証をする」ようになったと言う。 増加の一方で、鑑定する医師の確保が課題だ。 精神科医でつくる日本司法精神医学会は14年、精神鑑定医の認定制度を始めた。だが約1万7千人いる精神科医の中で、認定医は現在58人にとどまるという。 認定医でなくても鑑定は可能だが、専門的な知識や経験が求められる。 何も語らないなど、話を聞くこと自体が難しい容疑者もいる。鑑定経験のある60代の精神科医は「鑑定には、容疑者と話せる人間関係が必要になる。毎日や週に何回か会って、たわいもない話をする。関係を築くのは難易度が高い」と話す。 平林さんは、鑑定自体が大変なうえ「治療して患者さんの役に立ちたい」という医師の気持ちと結びつきにくいことも、なり手が増えない一因だとみる。 国立精神・神経医療研究センターでは認定医の資格取得を目指すことができるプログラムを設けているが、全国的に鑑定医を育成する場所はまだまだ少ないという。 「一般の診療さえ医師が少なくオーバーワークの中で、鑑定を引き受ける人や、研修で自己研鑽(けんさん)をする人は少ないと思う」と平林さんは指摘。精神医療全体の底上げが鑑定医不足の改善につながる、と語る。(原晟也、原野百々恵)
朝日新聞社