古今東西 かしゆか商店【つづら】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回の訪問先は東京。呉服の町として栄えた日本橋人形町で、着物をしまう美しい箱「つづら」の職人と出会いました。 【フォトギャラリーを見る】 祖母から譲り受けた着物を楽しむようになったのは数年前から。そろそろ箪笥が必要かなと思っていた時、つづらの存在を知りました。 「つづらとは、竹を編んだかごに和紙を貼り、柿渋や漆を塗って仕上げた蓋付きの箱。元禄時代に葛籠屋甚兵衛という江戸の商人が考え、明治以降は庶民の間でも着物をしまうのに使われました」 そう話すのは日本橋人形町の甘酒横丁に店を構える〈岩井つづら店〉4代目の岩井良一さん。
「戦後は関東に250軒ほどつづら屋がありましたが、洋服中心の時代になって需要が減り、今、東京ではウチだけ。ただ、若い方の和装ブームもあって、興味を持ってくださる方も増えているんです」 確かに現代の住宅やマンションでも取り入れやすいサイズ感。着物の大敵になる湿気は竹や和紙が吸収してくれるし、漆も呼吸する素材なので通気性が保たれます。
「つづら作りは分業制。職人が編んだ竹かごを仕入れ、手漉き和紙を貼るところから始めます。大きなつづらや傷みやすい角の部分には、丈夫な蚊帳生地を裏打ちした和紙を使うんですよ」 と岩井さん。貼った和紙の上にふのりを塗り、竹櫛を当ててジャッジャッジャッと力強くこすります。編み目が浮き出るくらいまで竹かごと和紙をなじませたら、1~2日ほど乾燥。柿渋を施した後にようやく漆塗りの作業です。これまでに見てきた漆工芸は何度も塗り重ねて艶を出していましたが、つづらは1回だけなのだとか。
「塗り重ねると編み目が消えてしまいますから。竹かごの凹凸を残しながら、広い面を一度できれいに塗る。そこが難しいですね」 仕上がったつづらの軽さにも驚きました。大きいサイズでも軽々持てる1kg前後。傷んだ場合は貼り直しや塗り直しができるのも、手仕事のいいところです。