【社説】地方自治法改正 上意下達の拡大は認めぬ
2000年の地方分権改革から四半世紀近くがたち、国政から分権の理念が薄れつつある。 特にこの10年余りで、国と自治体の関係は本来の「対等・協力」から、分権改革以前の「上下・主従」へ変質している。その意識は国側に強く、自治体を統制する傾向が目につく。 非常時に、国が自治体に対応を指示できる改正地方自治法が、今国会で成立した。これも昨今の分権逆流を強める動きと言える。
■国の指示権は不要だ
現在の指示権は、災害対策基本法などの個別法が規定する場合に限られる。今回の法改正で、個別法に規定がなくても「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」であれば行使することが可能になる。自治体は従わなければならない。 衆院と参院の審議を経ても判然としないのは、国がどのような事態に指示権を行使するかだ。松本剛明総務相は何度問われても、具体例を示さなかった。 強制力を持つ指示権を曖昧な要件で認めるわけにはいかない。これでは政権が「重大な事態」と判断すれば、恣意(しい)的に行使できる。 乱用を防ぐ仕組みも不十分だ。事前に自治体から意見を聞くことは努力義務でしかない。修正案に追加された国会の関与も事後報告にとどまる。 法改正に反対した国会議員や弁護士は、武力攻撃を受けた場合を想定していると推測する。政府は「特定の事態を除外するものではない」と否定していない。 自治体を国の方針に従わせるための指示権拡大だ。あらゆる可能性が考えられる。 想定外の事態で、国や自治体が速やかに対処できないことは当然ある。その時に必要なのは、現場から遠い国の指示ではない。自治体と国が協力して最適な方法を見いだすことだ。 政府は、新型コロナウイルス禍で自治体の現場が混乱したことを法改正の理由に挙げた。それは事実だが、国の指示権があれば回避できたわけではない。混乱していたのは国も同じだ。 国と自治体が適切に役割を分担すれば指示権は不要だ。国が自治体間の調整や職員派遣のあっせんをする必要もない。 地方自治への国の関与は、今後も最小限であるべきだ。