【詳細分析】米大統領選挙の「天下分け目」はどこか?バイデンとトランプの激戦州争奪戦
3月も末になり、2024年米大統領選挙を戦う民主党のジョー・バイデン大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領の動きが、益々活発になってきている。バイデン大統領は3月28日(現地時間)、バラク・オバマ元大統領とビル・クリントン元大統領と3人で、ニューヨーク市で政治献金の集会を開き、1日で2600万ドル(約39億円、1ドル=151円で換算)を集めた。 一方、トランプ元大統領はニューヨーク市で殉職した警官の追悼式に参加し、バイデン大統領との比較を鮮明に打ち出して、「より良い大統領像」を見せつけた。その中には、警官の命を尊重しかつ、犯罪対策を重視するというイメージも含まれる。同じニューヨークを訪問しているバイデン大統領を強く意識した計算された演出である。 今後、人口の割合によって割り当てられた各州の選挙人――殊に激戦州における選挙人――の獲得に向けて、両者の間で激しい動きがみられることになるだろう。 一口に激戦州と言っても、大統領選挙の度に州が変わる場合もあれば、同一の州が激戦州になっても、争点によって支持者がシフトする。例えば、2008年と12年大統領選挙では、南部バージニア州と西部コロラド州が激戦州に含まれていた。 オバマ選対に研究の一環として参加した筆者の観察によれば、バージニア州では、州都リッチモンドの黒人、北部フェアファックスのリベラル層とヒスパニック系(中南米系)および、バージニアビーチの黒人とヒスパニック系の票如何で、バラク・オバマ大統領とライバルのミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事(共に当時)の勝負が変わるという事態であった。結果は、それらの有権者の票は、オバマ大統領に投じられ、彼が得票率で3ポイントの差という接戦を制した。 コロラド州ではヒスパニック系の顕著な増加が、勝負の鍵となった。つまり、オバマという“黒人”の大統領候補によって、人種と投票行動が激戦の要素となったのである。 激戦州は「スイングステート(揺れる州)」と呼ばれる。選挙の度に、民主党と共和党の間を振り子のように揺れ動くのでスイングステートと呼ばれるのだが、その理由の一つは争点が影響を及ぼすからである。例えば、今回のイスラエル・ガザ戦争によって、バイデン大統領はアラブ系が多い激戦州ミシガンで停戦を強く求める若者とアラブ系の支持を少なからず失っている。 また、今回の大統領選挙では、人工妊娠中絶の権利が主要な争点になっている。バイデン大統領は、2022年に米最高裁によって覆された人工妊娠中絶の権利復活を強調し、「トランプは女性に罰を与える」「中絶は女性の自由の権利である」と訴えている。この争点は、女性や若者においては気候変動よりも重視されている。激戦州の共和党支持の女性の中で、人工妊娠中絶の権利復活を強く望む女性は、バイデン大統領に投票するかもしれない。 さらに、人口動態、特に人種構成の変化も激戦州になるか否かに影響を与える。例えば、メキシコと国境を接するアリゾナ州は、ヒスパニック系の人口が32.5%を占めている(2023年時点)。以前は共和党が圧倒的に強い赤い州(赤は共和党のシンボルカラー)であったが、近年ヒスパニック系の人口流入により、民主党支持者が増え、その結果、2020年の選挙では激戦が繰り広げられた。 24年米大統領選挙では、全米50州の中でどの州が激戦州となるのだろうか。また、ジョー・バイデン大統領は当選に必要な「選挙人270」を獲得するために、どのような選挙人獲得の戦略を描いているのか。一方、前回の大統領選挙で敗れたドナルド・トランプ前大統領は、どの州を奪還すれば、勝利できると考えているのか――。