【詳細分析】米大統領選挙の「天下分け目」はどこか?バイデンとトランプの激戦州争奪戦
激戦7州とは
今回の選挙では、バイデン陣営は東部ペンシルベニア州、中西部ウィスコンシン州、ミシガン州、南部ノースカロライナ州、ジョージア州、西部ネバダ州、アリゾナ州の7州を激戦州に挙げている。これらの州は、2020年でも激戦州として注目された。 前回の米大統領選挙での激戦7州におけるバイデン大統領とトランプ前大統領の得票率の差を調べてみると、得票差の小さい順に、ジョージア州0.3ポイント、アリゾナ州0.4ポイント、ウィスコンシン州0.6ポイント、ペンシルベニア州1.2ポイント、ノースカロライナ州1.3ポイント、ネバダ州2.4ポイント、ミシガン州2.8ポイントであった。これらの7州は、得票率の差が3ポイント以下であった(図表1)。上記の内、ノースカロナイナ州以外は、バイデン大統領がトランプ前大統領に勝利した。 バイデン大統領は、ジョージア州アトランタ、ウィスコンシン州ミルウォーキー、ペンシルベニア州フィラデルフィア、ノースカロライナ州ファイエットビルおよびミシガン州デトロイトなどに住む黒人を標的にして、彼らの票を稼いだ。一方、アリゾナ州とネバダ州では、フェニックスやラスベガスなどの都市に住むヒスパニック系を狙った。 バイデン大統領は今年3月19日、アリゾナ州フェニックスにあるメキシコ料理のレストランに支持者を集め、「この大統領選挙の結果を決めるのは、わずか6州か7州である。アリゾナ州はその中の1州だ」と語った。アリゾナ州の有権者に強い印象を与え、コミットメント(関与)を求める言葉であった。 20年米大統領選挙では、選挙の専門家たちは南部フロリダ州や中西部オハイオ州を激戦州に入れて選挙人の獲得を予想したが、この2州は早い段階でトランプ前大統領の大勝が決定し、その意味では激戦州ではなかった。
ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州の3州
大統領候補者がどの州を重視しているかの指標のひとつは、訪問――その回数、機会や対象となる有権者がいる場所である。バイデン大統領のこれまでの訪問についてみてみると、7州の中でどの州を最重点州においているのかについて、はっきりとした傾向が見られる。 2021年1月の大統領就任時から23年12月までの3年間に、バイデン大統領はペンシルベニア州を32回、ミシガン州を8回、ウィスコンシン州を7回訪問した(図表2)。 ホワイトハウスがあるワシントンD.C.に隣接する南部メリーランド州とバージニア州および私邸がある東部デラウェア州を除けば、他州と比較すると、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州の訪問回数は多い。特に、前回の大統領選挙の勝敗を決定づけたペンシルベニア州の訪問回数は突出している。同州は、主として献金目的で訪問する東部ニューヨーク州と西部カリフォルニア州よりも訪問回数で上回っているのだ。 バイデン大統領は23年、ミシガン州で全米自動車労働組合(UAW)の集会やストライキのピケに参加した。対象としたのは、古くからの民主党支持層である労働組合員と労働者である。また、ウィスコンシン州では、黒人が経営する企業や黒人商工会議所を視察した。 大抵の州では、バイデン大統領の3年間の訪問回数は0回ないし1、2回である。例外は中西部オハイオ州で、ミシガン州とウィスコンシン州程度に訪問しているのだが、オハイオは前回の選挙で、トランプ前大統領が8.1ポイント差で勝利を収めた州である。3月16日に発表されたフロリダ・アトランティック大学の世論調査によれば、現在もトランプ前大統領がオハイオ州においてバイデン大統領を11ポイント差でリードしており、同州は今回の大統領選挙において激戦州に入らないだろう。 しかし、オハイオ州の訪問には全米に向けたアピールがある。例えば、バイデン大統領は、連邦政府からの補助金を受けて、米インテルが州都コロンバス郊外に建設する半導体工場の着工式に22年9月に参加したが、それは2022年8月に成立した半導体産業支援法の成果を全米に宣伝する絶好の機会と捉えてのことだった。