「独り者で、家族もいないので、自分が行きます」被ばくの危険がある中で…《福島第一原発事故》で若い運転員たちが迫られた“決断”
「まず、1号機ではないのですか?」 「今、1号機の話をしているんじゃないの?」 小森が答える。 「圧力が上がっているのは、1号機でございますが、1号機も2倍にいっているわけでなくて……。注水機能がブラインドに(見えなく)なっている時間が長い2号機のほうが本当かと疑っていくべきだと」 1号機の格納容器の圧力は8.4気圧。設計時に想定した最高圧力の5.28気圧の2倍までには達していないため、まだ猶予がある。むしろ全電源喪失以降、注水が確認できていない2号機のほうに不安要素があるという説明だった。 しかし、8.4気圧は通常、格納容器にかかる圧力のおよそ8倍にあたる異常な値である。納得できない記者から、質問が投げかけられる。 「1号機は、もうレット・イット・ゴー(対応必要)の状態なんですよね。2号機はなぜですか? 突然、出たのでびっくりです」 小森はあくまで2号機の危機を強調する。 「本当に給水できているかどうかというのが、一番最初に怪しくなったプラントが2号機です」 「我々が技術的に理解しているものから見て、なかなか説明がつかないというのが2号機であります」
錯綜する情報
会見が始まる直前の午前2時半すぎ、免震棟と本店は2号機のベントを優先する方針を決めていた。1号機のベント弁を開ける作業は、高い放射線量のため、準備に時間がかかる。1号機は深刻な状況にあるが後回しにして、まず放射線量が高くなく、作業が可能な2号機からベントを実施するという戦略だった。 しかし、刻々と変わる情報の中で、小森はこの複雑な戦略を咀嚼し切れずに会見に臨んでいた。その後も、小森は繰り返し、1号機ではなく、2号機が危機的状況にあることをことさらに強調するという奇妙な説明を続けた。納得できない記者の質問が、次第に詰問調になり、記者会見は紛糾し始めた。 会見が始まって30分近くが経った頃だった。突然、東京電力の原子力担当の社員が会見を遮り、怒鳴るように告げた。 「今、入った情報でございますけど、現場で、RCICという設備で2号機に水が入っていたことが確認できたという話が、今入りました! 申し訳ありません」 午前2時55分に、2号機の原子炉建屋に入っていた運転員が、RCICの作動を確認したという情報が、免震棟の吉田から東京の本店を経由して、ようやく経済産業省の会見場に届いたのだった。 すかさず、記者から確認の質問が飛んだ。 「それを受けて2号機からやるか1号機からやるか判断し直すということですね」 「そういうことですね。申し訳ございません。申し訳ございません」 一転して2号機ではなく、1号機の危機がクローズアップされてくる。錯綜する情報に小森は、翻弄されるばかりだった。
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